[コメント] ストレイト・ストーリー(1999/米=仏=英)
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特別、学があるとかじゃないし、何か功を為したわけじゃない。医者や家族の言うことは聞かず体に悪いことだって止めないし、間違って轢き殺された鹿は食っちゃうから、悪人ではないが聖人でもない。でも、そんな爺に惹かれるのは、自分自身に迷っている人たちで、彼らは「どうして、あなたはそんなに確固とした自分でいられるのです?」と聞かずにはおれないのだ。
自分の属性を気にしたり、価値を捜し求めたりしようとかして、何かものさしに自分を照らし合わせようとした結果自分の軸がぶれてしまうと、一見ただの頑固爺に過ぎない、その「信念の人」につい教えを請いたくなるのだろう。多様な価値観に振り回されがちな現代に生きる人たちが多いからこそ、星空だけを基準として自分の今いる位置を見据えてきた老人が魅力的に思えるのだ。
子供が生まれた時、子供が死んだ時、戦争中あやまって仲間を撃ち殺してしまった時、娘が社会的不適応とされ孫を施設に奪われた時、そのたびに「勝者」だったとか「敗者」だったとか結論づける前に、いつだって爺さんは星を眺めていたのだろう。そして自分が何者なのかを考えたのだろう。それが兄と一緒に行っていた子供のころからの習慣だったからだ。
それが実話なのか、脚色なのかわからないが、不可知な世界の法則が人間のまわりをつつみこんでいるような感覚を描こうとしているのはいつもの監督の作品と同じように思う。そして悪夢が溶け出していくような時も、星空が広がる時も、決まってバダラメンティのベタで情感的なメロディが流れるのだ。そのセンスこそ私にとってはリンチワールドなのである。
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