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[コメント] オール・アバウト・マイ・マザー(1999/仏=スペイン)

何かを振り払おうとするかのような急ぎ足の物語、走馬灯のように過ぎる車窓からの風景。逃げる旅から行き先を求める旅へと変わっていく、母性の遍歴。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最愛の息子に先立たれ行き場を失ってしまった母性。立ち止まずに駆け足で進むことで振り払おうしても、振り払えないことでそれがどれだけ根源的な希求であるかを思い知る。父親も母親ももはやこの世にはいない子との出会いは、彼女にとって運命だったのかもしれない。2人の関係がニセモノであることなど、ここでは重要ではない。どれだけ心から望んで「母親」という役を演じたいのか、そして彼女がその母性の強さをどれだけ自覚しているか、それだけである。

母を演じたい、女になりたい。この映画は何かを演じたいと望む人への、限りない愛に満ちている。確かに彼女(彼)たちの役は、本来与えられてるはずの役とは違うというところで、表から見たら「ウソ」であるし「ニセモノ」である。それでも自分は、切実な感情でその役を自らの手で掴もうとする人に感銘を受けずにはいられない。(自分も含めて)与えられた役でさえ、時に持て余し気味になる人間がどれだけ多いかを考えると、なおさらである。

そんなことを端的に表している舞台裏の一シーン。役者ではないのにただひたすらその役を演じたいと思っている人(主人公)と、本職にも関わらず全てにおいて持て余しがちな人(ジャンキーの女の子)の違いは、舞台に立った時に如実に表れてくるもの。どちらが役に説得力をもたらし観客の心を動かしたか、それは見れば分かるように表されている。

とは言え、この映画にはやや偏った見方やある種の曖昧さが存在することも否めない。でもそれを補って余りある演じるものへの「愛」に満ちた映画だと思いました。

追記:エピキュリアンさんのご指摘に納得しつつも、個人的にジーナは、ニセの親子の愛を演じた『グロリア』へのオマージュも含まれているような気がしました。

(評価:★4)

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