[コメント] 赤い天使(1966/日)
「愛と死と性」なんて書くと陳腐なテーマにしかならないが、増村保造は巨大な毛筆に血を滴らせて殴り書きしてみせた。すべては肉塊である。私の知り得る中で最もエロティックな映画であった。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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すべては肉塊である。
バケツに詰め込まれた切り落とされた手足。山積みにされたかつては人間だった遺体。迫撃砲弾で瞬時に飛散する兵士たち。
ラストに身包み剥がされ裸で放置される死体たちも肉塊。
両腕の無い男(川津祐介)もただの肉塊だ。人間の男だった過去を証明するかのように毛布の中で屹立するペニスも肉塊だ。
インポテンツの芦田伸介の萎えたペニスもただの肉塊に過ぎない。
だが、戦場の極限状況にありながら、唯一「愛」などと場違いな思考能力を維持し続けた若尾文子だけは「生」が満ち溢れた肉体として描かれる。
生死の選別・生き残らされた悲しみ・戦場での性欲・不能故の拒絶・その肌に触れた者は死んでいくという哀しみ。
すべてが逆説的に描かれた本作の異様さに恐怖感が募る。
醜い肉塊若尾文子の中にあって、華麗な曲線を描く若尾文子の流麗な肉体は異様な「画」であり、その異様な頂点は国共連合軍の包囲網が狭まる中での妖しい肉の交わりのシーンで極まる。
緊迫する守備隊の「画」と、場違いともいえる交わりの「画」が交互にカットバックされるシーンは秀逸である。これほどのエロティックなシーンがあるだろうか?
彼等男たちは皆、これから醜い肉塊になるだろう事は容易に想像がつく。「愛と死と性」なんて陳腐なテーマだが、こんなに骨太で血を滴らせての描き方があったのかと興奮させられる。
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