[コメント] マルホランド・ドライブ(2001/米=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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図像学という絵画の鑑賞方法を御存じであろうか? 例えば美術館に行き、一枚の絵を見る。ただ見る。 これを印象批評という。その絵に対し、なんの予備知識もなく 感じたままに見て何かを思えばよい。しかし、絵画が好きになってくると、その作家の国籍、どういう生い立ち、その時代の歴史を知りたくなる。 それを知ることによって、絵に対して、また新たな考えが浮かぶ。
さて、図像学というのは、絵の中に作家がちりばめた意味を探すことと 言ったら、あまりに強引な説明であろうか? ブロンズィーノの「愛のアレゴリー」などは、7人の人間がそれぞれに 意味を持つ。その意味を知れば、この絵に対し、自分だけの印象批評より 豊かな視点で、鑑賞することができる。この絵に対し興味がある方は、 「絵画を読む」イコノロジー入門・若桑みどり著(NHKブックス)を お読み下さい。
本題。『マルホランド・ドライブ』である。 物語がわからない、と嘆くより、夢の中に沈んでしまうことが、 正しい見方だと、思う。けれどもリンチは、絵画よりの映画を撮る監督だ。 一つでもちりばめられた〈意味〉を知ることも、鑑賞方法かなと考え、 気づいたことを書かせて貰うことにする。(前置き長くてスイマセン)
気になって仕方がなかったのは、叔母に貸して貰った部屋に飾られた 白いターバンを頭に巻いた女の絵である。どこかで見たような気がして、 本棚を漁ってみると、澁澤龍彦の「女のエピソード」(河出文庫)の表紙の ように思えるのだ。ビデオで繰り返しチェックしたのだが、顔の表情が違う ような気もするが(映画の中の女は口元が笑っているよう…)、 これが「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」のレプリカだとしたら、 犯人のメタファーなのかもしれない、と思うと謎を発見したようで、 なんだかとても嬉しくなってしまった。
スタンダールは、グイド・レニの筆による「ベアトリーチェ・チェンチの 肖像」という絵を見て感銘し、「イタリア年代記」という彼女の小説を書いたそうだ。ベアトリーチェという女性は実在の人物で、話はルネサンス時代 のイタリアに遡る。物語はこうだ。ある名門貴族に生まれたベアトリーチェ は、美しい女性に成長する。しかし実父が、娘を誰にも渡したくないと 純潔を奪う。ベアトリーチェは父を恨み、ある夜、二人の家来に金をやる 約束で、父を毒殺させる。やがて犯罪は発覚し、ベアトリーチェは首を断ち切られる。
小説では近親相姦、映画では同性愛。どちらも普通の愛の形ではない。 そして、不幸な生活に耐えきれなくなって犯す犯罪。 小説では斬首、映画では頭をピストルで打ち抜く死に方。 酷似していると思わないだろうか?
やはり絵画寄りの映画の謎解きは面白い。 今度は『シャイニング』の双児。あれはダイアン・アーバスの写真の引用と 思っているので、〈意味〉を探索してみたいものだ。
※素人批評なので、もしあの絵の意味が間違っていたらごめんなさい。
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