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[コメント] KT(2002/日=韓国)

前線が何処にあるのか、その位置感覚のズレが今日の世界の混迷
torinoshield

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







●どうしてどいつもこいつもかっこいいのか。

このアジアだけでこういう類の映画で登場人物がかっこいいのって邦画じゃ珍しい。じゃあ、何がそうさせるのか?それは監督が東アジア文化を重んじる思想だからだ。 ハリウッド追従型は欧米人に憧れてますっていうのがスクリーンからどうしても消すことが出来ない。言ってみればマイケル・ジャクソンの顔の白さをお前は笑えるのかってやつだ。ところがこの監督はとにかく自分達の文化に誇りを持っているのだ。映画中の『仁義なき戦い・広島死闘編』も同タイプの映画だと言える。そして音楽担当の布袋も同じ。

劇中で日本人であることに誇りを持って行動するのは富田だ。ある意味失敗だったのは監督がこの人物像を知りすぎている為に彼の価値感を略しすぎたことだ。点数の低い方達が言われるように「何故彼はKCIAに荷担しなければならなかったのか意味不明」なのだ。

●富田の行動原理を解いてみる。

戦前の軍部が「対ロシア戦時に最前線を国内に置いたらひとたまりもない、と結論し朝鮮北部さらには満州北部を最前線に設置した」感覚と富田の「38度線を境にし共産勢力と日本は戦争状態にある」という感覚は実は同じ。つまり彼は70年代に入っても日本は戦場だと思っていて日本の戦争は大陸の前線状態で決まる、と考えている。

一方韓国の当時の政府は軍事政権であるので彼らの最大の関心事は北との軍事バランスだ。北朝鮮の当時の政策の1つに南が内部崩壊するように内部工作をする、という物があった。 政治的に純粋な大学生を利用し統一を叫ぶ一派の中に工作員を紛れ込ませる手だがそういった大学生に人気が高かったのが金大中。 つまりKCIAや富田から見ると金大中は北から送り込まれた破壊者の可能性が高かったのだ。KCIAの拉致に富田が荷担する理由はここにある(そして富田が知り合い愛した女性がやはり工作員に騙されていたというのも一役買っている)。

●日本という国

この映画は確かにフィクションだ。実際の事件は--海外で活動する金大中を暗殺する為にKCIAが動いていた、そして日本政府はそれを止められなかった---というだけの事だ。当時日本国内は「主権侵害だ、韓国は日本を小馬鹿にするのか」といった論調だった記憶がある。実際韓国側は日本が戦前に犯した罪に縛られ「どうせ何も出来やしまい」と舐めていた所がある。そして明らかに主権侵害であるにも関わらず日本政府は金車雲個人の犯行として事件を処理した。(政府は主権侵害よりも日米韓の関係を重視しただけだが)

もしあの当時同じ様な自衛官がいたとして同様の行動を取ったとしても「何故彼はKCIAに荷担しなければならなかったのか意味不明」と言われたはずである。当時日本はすでに「戦後」だったのだから。それが富田の、そして三島の苛立ちだったのだが。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)movableinferno[*] 死ぬまでシネマ[*] ピロちゃんきゅ〜[*] chilidog[*] sawa:38[*] スパルタのキツネ[*] tredair[*]

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