[コメント] KT(2002/日=韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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映画の冒頭に「この映画は実話を元に作られたフィクションである」と言ったことが予め表記される。これがあったことで映画自体の見方がかなり変わった。些細なことなのだが、この表記がなければ自分はこれを事実として重く受け止めたかもしれない。まだ10代の自分が生まれる10年前の事件について事件の存在は知ろうとも、詳細まで知っているわけがない。しかし、予めフィクションであることを提示してきたので、事実にこだわったものというよりも、巧く脚色した骨太なドラマを期待した。しかし、骨太なドラマは見る由もなかった。
随所に見られる政治的発言、「日本も韓国もアメリカのイエローモンキー」だという台詞や自衛隊の違憲性を問う発言など、扱っている事件は30年前のものでも、9.11や亡命未遂問題など様々な現代の出来事に通じる発言が台詞から聞かれることは意義があることだ。イデオロギーを語り、問題に向き合う姿勢は評価したい。また、静かな雰囲気の中で効果的に使われる布袋寅康の音楽も評価に値する。
だが、自分はイデオロギーから訴えかける姿勢をさらに推進して欲しかった。製作者側からはこの映画を娯楽作品として見せるという姿勢も垣間見れる。とすると、自分はこの映画を評価できない。ストーリーに見せ切る力を感じない。ポリティカル・サスペンスと謳っているのでサスペンスとして見た場合、金大中をホテルの廊下で拉致するシーン前後以外は緊迫感も感じない。人間ドラマとして見ると、キャラクターに関しては様々な人物が登場し、それぞれ印象を残しているのだが、思い切って感情移入できるようなキャラクターには出会えず、その主体が掴めなかった。キャラクター描写で一番引っかかるのは金大中の描写だ。これが不鮮明なばっかりに全てが弱く見える。金大中がどのような政治思想を持ち、どのような人物で、何故命を狙うのかをもっとしっかり予め描くべきだ。ベルリン映画祭に出品されているし、この映画を見るのは金大中拉致事件を詳しく知る人たちばかりではないはずだ。富田にしても何故拉致を支援しようとするのか?彼の口から「これは俺の戦争なんだよ!」と言われても説得力も何もない。何故か挿入されている富田と韓国人女性の恋愛にしろ別に必要はない。ラストのエピソードにしたって政治的に難しいとは思っても、恋愛劇として悲劇だとは感じられない。両方を感じられなければいけないはずなのだが・・・。無駄にエンターテインメント要素を注入した結果が裏目に出てる例だろう。
また、70年代らしさを出す小道具などしっかり用意している点では細部までのこだわりを感じてよいのだが、細部をいくら揃えても現代の臭いがかなり漂っていた。雰囲気から昔を感じられないのである。それが逆に不自然なのだ。
日韓合作で歴史的事実を題材にしたことは決して無駄ではないが、社会派ドラマとしてやはりもう一歩。難しい題材に向き合ったことを評価しても、残念ながら合格点はつけられない。
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