[コメント] パニック・ルーム(2002/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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いかにもジャンル映画っぽいオーソドックスなシチュエーションづくり、「黒人は殺さない」というハリウッド不文律の厳守、ヒッチコック的タイトルバック&カメラワーク、結末のあっけなさはまさにフィルムノワールのそれ(しかも札がビラビラは『現金に体を張れ』のパクり)、他にもあるかなあ。『ホーム・アローン』へのオマージュを匂わす「おいそこのジョー・ペシ」という台詞とか、あ、しがないタクシー運転手のくせにキレてる悪役(ドワイト・ヨーカム)はきっと『タクシードライバー』だな!(いやそれは違うだろ)
まあともかく、フィンチャーが、あのデビッド・フィンチャーがですよ、こうやって過去の作品へのオマージュを連発しつつ、異端児きどりをやめていきなり「ジャンル映画」というもっとも古典的な枠組で作品作っちゃおうってんだから、なんだ、ヒッチコックの衣鉢をつぐスリラー正統派の末端に名を連ねたかったのか? 自分は異端気取ってるけどちゃんと正統派な作品も撮れる多才だってことをアピールしたかったのか?
ともかく何よりもすごいのはだな、それにまんまと失敗してること! わはは! こりゃどう考えたって失敗だろ! 脚本はツギハギと矛盾だらけだし、演出は大味すぎて緊迫感のかけらもないし、泥棒三人組はたとえギャグにせよあまりにもアフォだし、いろんな要素を詰め込んだはいいがそれらが全然かみあわず空中分解しちゃったような感じ。「多才」っていうのは一歩間違えるとただの「器用貧乏」になっちゃう、それを体現したような作品。
この人の「多才」ぶりが発揮されるのは、やっぱり何だかんだ言って本来の持ち味であるシニカルで偽悪的な底意地の悪さが爆発してるときだと思う。その持ち味自体が良いか悪いかは別にして。だから慣れないことに手を出してハッタリかまそうなんてヤマっ気は起こしなさんな。ちゃんと自分のホームで、真っ向から直球勝負するぐらいの気持ちでいたほうがちょうどいい。アンタの場合存在じたいがすでにハッタリみたいなもんなんだから。真っ向勝負なハッタリになら付き合いますよ。どこまでも。
※それでも★3つにしたのは、こんなザルな脚本でも、それなりに映画としての体裁を整えられる構成力はやっぱりサスガと思ったのと、ヒッチコックを意識したカメラワークなのに、ただのサル真似に終わらせず、あのフィンチャー一流の生理に訴えかけてくるような生々しさの痕跡をしっかり残してる点に敬意を表して。
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[020918] 飯田橋ギンレイホール(『アザーズ』と2本立て)
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