[コメント] Dolls(2002/日)
さいごには、言葉にするのをためらってしまうほど、かんたんな言葉が浮かんでくる。でも、その言葉は口に出してはいけない。この言語化の拒否の姿勢に賛成。
季節の移り変わりが美しい。衣装がすばらしい。でも、こんなにキレイな四季の景色は、おそらく登場人物の目には映っていないんでしょうね。
秋から冬への移り変わりがとくに美しい。物語が重なってゆき、深みのある多重奏になったところでぷつん、と切るやりかた。暴力描写で鳴らした監督の暴力はこういうところに潜んでいる。
それにしても、なんて詩的な映画なのだろう。語られないぶん、見る側の内側で言葉が育ち、重ねられていく。この感覚、なかなかほかじゃ得られない。
無口で、あっさり淡々と展開される残酷な人間模様。人間、必死に生きようと思ったら、他人を傷つけねばならない。そのかわり、自分も傷つく。じたばたすればするほど、傷は深まる。残酷なものだ。そして人はかならず死ぬ。放っておいても、必ず死ぬ。当然のことだ。
でも。
ここまで救いのない、変化のない物語に、息を吹きかけ、うまく息継ぎをさせてしまう北野さんて人は、ストーリーテリングのこつをよく知っている。みずからがステージの上で生きる人だけに、その緩急の変化のつけ方は、他者の追随を許さないレベルに到達していると思う。もしかしたら、持って生まれたリズム感なのかもしれないけれど。
今回、わたしは彼の呼吸に合わせて物語の海の中に沈むことができました。鼻をつまんで、息を止めて。ブクブクブク。でも、水の中ではゆったりと呼吸ができる。
だって、ミカンで魚がつれることもあるかもしれないじゃないですか。
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