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[コメント] さがす(2022/日)

娘がようやく探しだしたものとは何を指すのか?
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







もしかしたら誰の身にも起こるかも知れない暗黒魔道への転落を描いたものとして面白かった。

その当事者ではなく、その娘からの視点を導入したことで、失踪した父は指名手配犯に接触しようとして逆に被害にあったのではないかと想起させるミスリードが可能になり、ミステリー度が高まる。「失踪物」の面白さは、失踪された側の「なぜ」という不条理な不安にあるわけだから、当然父ではない人の視点から語られる必要がある。

その反面、暗黒に転落していく人が転落にいたる「なぜ」には外部の視点からは迫れない。妻の病気まではごくふつうの、むしろいたって人のよいつましい一家であり、その父であったのが、殺人鬼の「これはむしろ人助けなのだ」という諫言を受け、さらに治療と介護で仕事もままならず、多額の金が必要になったことで、つい犯罪幇助に手を染める。そしていつしかそれを主体的に行うにいたることを、娘は最後に探し当て「やっとお父さんを見つけた」というのだが、どうもここがひっかかってしまう。娘は父の何を見つけたといっているのだろう? 

思い返せば冒頭で金槌を振る父の姿から始まるのだから、父は割と最初から計画的に殺人鬼を始末し、すべてを殺人鬼の仕業にしたうえで、その犯罪によって得た金を奪う気でいたのだろう。この作品が、きっかけは善良な気持ちであっても、一度味をしめてしまった悪事からは逃れられないのだ、ということを描いたものだとするならば、娘の視点から物語ろうとするととても弱い。結局どうしてそうなってしまったのか、その内面は外部の視点からはうかがい知ることができないからだ。

父が殺人鬼に脅されたのではなく、むしろ利用しようとするような人物になっていったのはもともとの性質なのか、あくまで母の病気が歪めてしまったことなのか、娘は何をどこまで知って「ようやく見つけた」と言い放つのか? 言い放つ割には、おそらく表面的なことしかわかっていないような気がする。多目的トイレでの父とムクドリさんの一瞬交わされた心の交流などは、外部の娘には知る由もない。いったい娘は、父が母を嘱託殺人したことを知っているのか知らないのか、それが説明されていない。父が母をどういう思いで看病し、精神的においつめられていたのか、娘がそれをどう見ていたのか一切描写がない。そもそも娘は病気になった母をどう見ていたのか、意図的なのか忘れているのか、あれだけ父とは親密にからむのに、娘と母のからみが一切描かれないのはどういうことなのか? 娘の視点を物語に持ち込んでいるのにも関わらず、そこに娘から見た母を描かないことが、どうしても不可解な感じがしてしょうがない。そうなってくるとタイトルの「さがす」も所詮表面的な捜索以上の意味しか感じられなくなってしまう。

そうそう文句を言っても面白かったことは面白い。とくに島のみかん農家のじじいとムクドリさんのキャラクターは、とても印象に残る出色の出来栄えと思う。膨大なエロソフトを収蔵し、なぜか刃潰しをしていない日本刀を所持し、よなよな波の音を聞き酒でもちびちびやりながら、孤独な老人がいったいどんな変態行為をしていたのか、想像すると楽しい。ムクドリさんの終始居丈高な態度も恐怖の裏返しを感じさせてうまいと思った。映画と関係ないけど、清水尋也と森田望智は朝ドラ「おかえりモネ」では、主人公の清原果耶と同じチームのフレンドリーな先輩として共演してたけど、これって撮影期間てこの映画と被っていたのかな?  こっちでは首をしめたりしめられたりしてたのか、っていうのも想像すると面白い。

さらに余談。父が最後にムクドリさんから奪った金が、札束の外側だけ本物で中は紙切れだったというシーンで、先に札束のからくりを見せてから、刑事の「(当日ATMで下ろしていた額は)6万なにがしでした」という台詞になるのだけど、これ順序が逆にしたほうが面白かったような気がする。先に「6万下ろしてました」って台詞があって、父が封筒をあけて札束を見たら…っていうほうがいいかな、と。大きなお世話ですが。あと最後のエアピンポンのシーンも意図がよくわからないといえばよくわからない。あれがなければ延々続くラリーはCGなのか、とか余計なことを気にしないですんだのにと思った。

(評価:★4)

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