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[コメント] ペイルライダー(1985/米)

どこまでも遠い風景を収めたいという制作力点の露わな冒頭シーンに驚かされたが、もっと驚いたことは役者たちの顔だった。クリント・イーストウッドの統括の元、映画草創期の西部劇役者らしい面つきの役者がここに揃っていることに我を忘れて喜んでしまう。
ジェリー

1960〜70年代の西部劇低迷を裏付けるしるしが、大勢の脇役たちの顔だった。ラテン系の顔か、そうでなければアクターズスタジオ系の演劇臭い顔のどちらかになっていた。そういう失敗はハワード・ホークスですら冒す。これを元に戻したのだ。演出の切れとかそういうものではない、演出に決して手を抜かぬ粘りと力技と映画への愛情をここに見る。

イーストウッドはこういう顔つきの男たちだけで成り立ちうる映画を復元したかったのだろう。考古学的熱意の賜物である。金採掘専門の荒物屋をしっかり可視化してくれただけでも嬉しい。酒場が登場しない西部劇というのもすがすがしくてよいものだ。この町のすがすがしさはどうだ。戦うための小道具以外何者も置かれていない抽象美を堪能しよう。

それにしても謎だらけの映画だ。この映画においてスパイダーが死ぬまで一人も人が死なない。この死体の節約の理由は何なのか。ペキンパーからの回帰をなし遂げようとしているのか。『シェーン』の主筋に何ゆえ露骨に似ているのか。牧師はなぜ悪徳保安官との因縁を最後まで語ろうとしなかったのか。なぜクリント・イーストウッドは、かつての自分の主演西部劇『夕陽のガンマン』と同様に主役に名を与えなかったのだろうか。こうした謎の追体験をしたくてこの映画を何度も見た。これからも見るだろう。

(評価:★5)

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