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[コメント] 八甲田山(1977/日)

憎みきれない娯楽大作。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







斜陽を迎えた日本映画界の底力を結集した豪華スタッフ、キャスト陣。特に東映、東宝からの面子は顎がはずれてしまう程豪華だ。

映画の主役は高倉健、ということになっている。北大路欣也が第二の主役に甘んじているのは、映画界に蔓延る悪しきヒエラルキーがそうさせたのと、彼を大々的に主役に据えてしまうと如何にも東宝らしい反体制反軍国主義が前に出すぎて商業映画として不都合が発生するから、という二つの理由が考えられる。しかし、俺的には、北大路好きの、俺的には、最期まで彼に絞って描いて欲しかった。

実際、左翼映画大好き女優栗原小巻の妻を持つ北大路の神田大尉率いる青森5連隊の道行で、悪役三国連太郎を中心に据えた軍隊批判(現代サラリーマン社会に適用可能)をしておきながら、高倉の徳島中尉が率いる弘前31連隊の道行きでは軍隊内の友情や団結を謳い、その統制や礼儀正しさを讃えてしまっているから、映画がいったい何をいいたいのか、何を伝えたいのかが全く判らない。

元サラリーマン脚本家の恨み節の悪を一手に受け負う三国を、最期にはアッサリと改心させてしまうところに、野村芳太郎と並ぶ黒澤ヒューマニズム後継者としての橋本氏の映画に対するスタンスが覗える。―本当にいいたいことなど何もない、黙って楽しめ感動しろ、金を払え― 俺は『砂の器』も本作も、ハッキリ云って苦手だ。ニッポンのジョン・ウィリアムズ?芥川也寸志の大袈裟交響楽が苦手なのも大きい。

しかし、小林桂樹に神山繁、丹波哲郎に加山雄三、加賀まり子に秋吉久美子、大滝秀治に藤岡琢也に前田吟に加藤嘉に浜村純にとにかく大好きな俳優たちが、前述黒澤の『天国と地獄』、野村芳太郎の『砂の器』と同様、惜しみなく配置されている。これは憎めない。憎みきれない娯楽大作だ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)ペンクロフ[*] 寒山拾得[*] けにろん[*] ジョー・チップ mal torinoshield[*] * kazby

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