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[コメント] フレンジー(1972/米)

ヒッチ映画の中でも異色中の異色作。『舞台恐怖症』以来21年ぶりにロンドンへ戻ってきて作った作品だ。
モモ★ラッチ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







話し自体はおなじみの間違えられた男の話。最大の要因はキャスティング。

いわゆる「ヒッチ・ブロンド」の不在、「間違えられた男」の平凡さ。加えて悪役の魅力。主役よりも脇役の方が魅力ある人物として描かれているヒッチ映画も珍しい。

殺人シーンのバリエーションにも驚かされる。見せることで異常性を浮き上がらせる絞殺シーン、逆に隠すことによって想像力をかきたてられるアパートの長回しシーン。前者を見せられている分だけその効果は抜群だ。そしてあの「ベロ」の怖さ。ヒッチは観客の想像力を大切にする。

ヒッチ映画には陰と陽があるとは以前にも描いたが、本作は陰惨さは感じても『私は告白する』や『間違えられた男』とは違い暗さは全く感じない。あくまでエンターテインメントを描くための異常な人物と陰惨な話。過去の同系列の作品群に比べると「華麗さ」よりも「生々しさ」、「ファンタジー」よりも「リアル」に焦点を当てたのが、70年代という時代と噛み合い、成功につながったのだろう。

久々に故郷に戻ったことで原点に回帰しようと思ったんじゃあないのかな。ロンドンの下町で生まれ育ったヒッチの昔を懐かしむ気持ちがこの映画の余裕にも繋がっているようにも思える。食べ物に対するブラック・ユーモアも含め、ヒッチの嗜好をあまりオブリガードに包まないで、前面に押し出して作った印象がある。

脚本に『探偵スルース』『ナイル殺人事件』のアンソニー・シェイファーが担当している。そのため一つ一つのエピソードの煮詰まり感が違う。間違われる男の激情性をさりげなく描いてみせたり、その彼がパブで飲んでいるとその近くで、のちに彼が容疑者にされる事件のことを話させ彼の運命を暗示させたりと伏線に枚挙に暇がなく、この繊細な感覚はやはり彼の賜物だろう。そして「You are my type of woman」の隠された意味の恐ろしさ。「lovely」と共に耳に残るセリフだった。

まことにイギリスの陰の部分を上手く取りあげて作り上げた上質なスリラーでありました。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)けにろん[*] IN4MATION[*] 3819695[*] くたー[*] TM大好き[*] 緑雨[*] crossage[*] いくけん

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