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[コメント] メゾン・ド・ヒミコ(2005/日)

恋愛だけでは欲望は満たせても、孤独は癒せない。親族からも社会からも切り離された底なしの孤独を癒せるのは連帯だけだ。ゲイとして数十年生きて来た男たちのキャリアが、そのことを若い岸本(オダギリジョー)と沙織(柴崎コウ)に気づかせるのだ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







老ゲイたちのキャリア。それは、親や子供たちとの縁を断ち、社会の偏見に身を潜めながら生きてきた孤独のキャリア。孤独が身に染みついた男たちは、愛人ヒミコ(田中泯)を失う若いゲイ岸本(オダギリジョー)と、父親ヒミコによって理不尽にももたらされた沙織(柴崎コウ)の孤独を、敏感に嗅ぎつけるのだろう。

そして、老ゲイたちは知っている。孤独を癒せるのは恋愛ではなく連帯であることを。彼らにとって、その象徴が「メゾン・ド・ヒミコ」であることを。だから彼らは本能的にその場を守ろうとする。しかし、その連帯の場がもろく危うい砂上の楼閣であることも、また彼らは知っているのだ。

成立しえない恋愛に孤独からの抜け道を見出そうとする岸本(オダギリジョー)と沙織(柴崎コウ)に、必要なものは欲望のための恋愛ではなく、優しさを共有する連帯であることを気づかせること。それが唯一、二人を救い「メゾン・ド・ヒミコ」を存続させ得る道だったのだ。

おそらくは、ゲイの彼らに戸惑い失望したであろう親族たちの写真を持ちより供養するお盆の宵の合唱のなんと静穏で厳かなこと。バリバリの衣装を身にまとい、若者たちの輪に入り颯爽とステップを踏む彼らのなんとハイで楽しげなこと。心が共有できたときに見せる彼らの素直さは、彼らが何十年間も耐え抜いてきた深い孤独の裏返しなのだ。

海辺の美しくもあやうい城。そこはヒミコの孤独と連帯、すなわち負から生まれた優しさの象徴であり、岸本にとっても、沙織にとっても、そしてあの中学生君にとっても、これからの数十年を生き抜いていくための心の拠りどころとなるのであろう。

個人が強調され、強さが求められた時代がここ十数年続いている中、商業ベースの癒しが現れては消えていく。そろそろ形だけではない本当の癒しが必要な時代になってきたような気がする。

最後になったが、ゲイたちの喧騒の輪の中でオダギリジョーがふと見せる孤独の影が、色香となって放つエロスは尋常ではなかった。

(評価:★4)

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