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[コメント] レジェンド・オブ・メキシコ デスペラード(2003/メキシコ=米)

本作はデップが売りであり、同時にそのデップが癌となった…そこが残念。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 シリーズ第1作の『エル・マリアッチ』(1992)、2作目の『デスペラート』(1995)共に私の大好きな作品。しかも私のイチオシ男優のジョニー=デップに、やはり大好きなウィレム=デフォー、ミッキー=ローク、サルマ=ハエックと私にとっては大好きな俳優ばかりを集めて作られてる。期待しない方が無理ってもんだ。

 ここでキャラクターの描写については文句なし。特にデップの格好良さは際だってる。おそらくロドリゲス監督、『デッドマン』(1995)を繰り返し観たに違いない。これまでのデップ作品の中で、一番あれに近い描写がされていたように思える。真面目なんだか不真面目なんだか分からない性格の描写なのに(でかでかと“CIA”とか、“俺は馬鹿と一緒”などと書かれたTシャツを来てたりするし、メキシコの伝統料理ピビルの偏愛ぶりなど)に、切羽詰まった焦りのようなものが垣間見える。こういった不思議な魅力こそが、デップの売りだ。

 勿論デップのみならず、デフォーや(顔の表皮が剥かれても、やっぱりデフォーに見えてしまうのが笑える)、ちょっと太ったロークも魅力的。思い出の中だけに登場するハエックも、『デスペラート』に続き、フェロモン全開で好演してる。

 勿論主演のバンデラスだって魅力充分。相変わらずぶった切ったショットガンを拳銃のように扱う姿や、乱戦のさなかにギターの調律に気をかけるなんて、ケレン味もちゃんと演出してくれてる。

 アクション部分だって演出的には充分すぎるほどに派手だし、そこは大満足できる。前作のマシンガンとミサイルに続き、火炎放射器やリモコン付きのギターケースは良いぞ。

 …の、だが、なんか。

 一つ一つ単体で見る限り、面白いのだが、これが全部まとまると、なんだか個性が殺されてるような気になる。なんか全体的にちぐはぐって感じ。

 それは何故かと考えるに、デップの使い方を間違えたのが最大の理由なんじゃないかと思える。私はデップのファンだし、ここでの描写は大満足なんだが、ふと気が付くと、デップって、他の主要キャラクターと殆ど絡んでないのだ。

 元々デップはこの作品ではカメオ出演の感覚で、気軽に引き受けたらしい。実際撮影時間は僅かに3週間(なにせ試写を観た本人が「驚いた」とインタビューで言っていた)。個性的ではあっても、あそこまで画面に出るような役柄ではなかったはずなのだ。しかし、この撮影終了後に出演した『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(2003)でアカデミーにノミネートされるほどの大ブレイクしたお陰で(公開は遅れたが、こちらの方が撮影は先)、予定を急遽変更して、出番を多くしたらしい。

 で、問題は撮影期間が短すぎたため、個人だけの撮影になってしまったと言うこと。他の主要キャラとほとんど絡まないため、別個の物語が映画の中で出来てしまった。結果、バンデラス演じるマリアッチと、デップ演じるサンズが、全く別々に物語に関わってしまったため、2つの物語が同時進行する形になってしまった(ここに想い出を加えると、3つの物語が同時進行する)。

 そのお陰で個々で観ると大変魅力的なのに、合わせるとちぐはぐになる現象が起きてしまった(同様の方法を用いて、やはりちぐはぐな物語となってしまった『ヒート』(1996)を思い出させる)。二つの方向から物語が展開するなればこそ、二人の絡みは重要だったのに。

 バランス考えるなら、当初の予定通りデップの出番は減らすべきだった。さもなくば、追加撮影が必要だった。

 それと、前2作ほどマリアッチの個性が出てない部分もある。これは一旦世捨て人になってしまったマリアッチのやる気の無さを表現しようとしてのことかと思うのだが、キャラクター描写はともかく、ストーリー総体で考えたら、やっぱり失敗のように思える。  1作目では何が何でもマリアッチになろうとする少年の強い思いがあり、2作目では復讐に命を賭ける。だったから、あらゆるものを排除してでも突き進む姿勢のようなものがあったのだが、ここにはそれは見られれない。ラストで強引に「メキシコのため」みたいな事を言わしてるけど、これは余計ってもんだ。

 描写は良いんだけど、シリーズの肝でもある“熱さ”が足りない。

 ところでロドリゲス監督の作品って、殆ど全ての作品において、どこかで観た映画のことを思い出させる描写が入ってるものだけど、本作はそれが特に顕著だった。先に挙げた『デッドマン』(1995)と『ヒート』(1996)を筆頭に、『ランボー3 怒りのアフガン』(1988)やら007シリーズやら、『フレンチ・コネクション』(1971)やら『アンタッチャブル』(1987)やら、とにかく色々な情景が頭に浮かんできたぞ。色々なところから良い部分を引っ張ってきてるんだろうけど、ここまでやるとなあ…

(評価:★3)

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