[コメント] ハウルの動く城(2004/日)
僕がとても不思議に思うのは、『マルホランド・ドライブ』のように訳の分からなさ故(勿論それだけの理由でもあるまいが)絶賛される作品もある一方で、この「ハウルの動く城」のように支離滅裂さが酷評を呼んでいる作品も存在するということだ。
元来カルトと呼ばれているものをカルトとして有難がるのは容易なことではないだろうか。「ハウル」はそうではない。他でもない、宮崎駿の作品である。
ハッキリ言って、自分には『マルホランド・ドライブ』よりこの「ハウル」のほうが刺激的というか、過激な作品に思えた。いろんな意味で。デビッド・リンチや鈴木清順が支離滅裂な物語を撮っていても「ああ、相変わらずだな」と余裕を持って観ることができたりするが、宮崎駿がそれをやっているという事実の破壊力は凄まじくないか。
確かに、前作『千と千尋の神隠し』もかなり物語が壊れていたが、本作はそれ以上だ。細部の破綻のみに留まらず、徹頭徹尾いっちゃってる雰囲気さえ感じられた。それ故に、これは「ここが納得できない」「ここが矛盾している」などと指摘する類いの映画ではない。そんなことがどうでもよくなるぐらい、全体が滅茶苦茶なのだ。
宮崎駿は一体全体どうしてこんな作品を作ってしまったのだろうか?晩年の黒澤明のように呆けてしまったのだろうか。ただ、呆けたことでメッセージ性や説教臭さが前面に出まくった黒澤に較べ、宮崎の場合はそれが希薄になっている。これが個人的には嬉しかった。
そして、説教臭さの代わりに前面に出たのが映像の浮遊感だ。とにかくこのイマジネーションの奔放さはどうだ。空飛ぶシーンの爽快感、町の風景の色鮮やかさ、動く城の描写のダイナミックさ。ドアを開ける度に違う場所に出ていくシュールな設定も楽しく、全てがこれでもかというばかりに宮崎印である。
にもかかわらず、話は一体どこに向かっているのかサッパリ分からず、強引なハッピーエンドをもって空中分解する・・・物凄いとしか言いようがない。
「ハウル」は傑作とまでは言わないが、忘れ難い映画であることは間違いない。巨匠に対する期待の裏返しなのか、散々な評価も目立つが、この愛すべきトンデモ映画を余裕を持って楽しむ観客が徐々に増えていってくれることを願う。
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