[コメント] 真実(2019/日=仏)
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家庭の諸成員が各々の続柄を演じた『万引き家族』から一転して、演じることを職業とした女性の血縁を描こうという『真実』は、ファビエンヌ・ダンジュヴィルなる大女優のキャラクタについてはドヌーヴその人を反映したところが小さくないのだろうと推し量られるけれども、おそらく是枝裕和の家庭劇にあっては最もフィクショナルな部類に属する。端的に云って、物語が家計・家政にまつわる懸念と無縁だからである。その意味で前作とは二重の対極が目指されていると云ってもよいが、フィクションに向かう演出家の意思は、ほとんど前後のシーンとの脈絡を欠いて生起するダンスシーンにも瞭らかだろう。このように円滑なストーリテリングを阻害した幸福な飛躍、しかもダンスシーンを是枝が撮(れ)るとは思いもよらなかったので、まったく望外の眼福である。
また、是枝の作としては例外的に「女児」の映画であるということも銘記しておくべきだろう。むろんこれまでもそれなりに重要な作中人物として登場した女児がいないではないが、彼女たちは『誰も知らない』『奇跡』におけるように男児との数的対応を強いられた存在だった(『海街diary』『三度目の殺人』の広瀬すずを女児と呼ぶことは適当でない)。『真実』のクレモンティーヌ・グルニエに特権的な立場が与えられていることは明白だが、当然にこれはまず「女系家族」のテーマに資するものとして導かれているのだろう。「ハリウッドの子役」を詐称するなど、彼女にも「演技」「女優」志向が備わっていることを仄めかして女系のテーマの強化が図られる一方、しかしドヌーヴ-ビノシュにあった母娘の葛藤がビノシュ-グルニエに「遺伝」した形跡は劇中に認められない。『真実』のフィクショナルかつ明確なハッピーエンディングは、グルニエの純真明朗なるキャラクタリゼーション、および彼女と母親の関係性によってあらかじめ逆算的に約束されている。
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