まず褒めよう。

原作者たっての願い野村萬斎の放つ異彩が異質の人「安陪晴明」に適役であり、この映画全体を支えていることは異論の余地がない。真田広之の悪役ぶりも最高だ。さすが狂言師と元ＪＡＣ、身体の動きが違う。伊藤英明も岡野玲子のマンガから抜け出てきたような博雅ぶりでいい（もっと間抜けでもいいぞ）。柄本明、岸部一徳といった（真田広之も含め）現代日本を代表する名優達も雰囲気がある。脚本もそれなりにまとまっていたし、久しぶりに梅林茂の音楽も聞けたし。

ところが女優陣はどうしたものか？もう少し美しく撮れなかったのか？変な特殊メイクだけでなく、怨霊に身を委ねた女の姿を美との対比で描けんかったか？（夏川結衣好きだけに『八つ墓村』じゃ気の毒だ）。小泉今日子様が百数十年も想いを寄せる相手が萩原聖人じゃ弱くないか？無実の罪をきせられた間抜け男としては適役なのか？

映画全体のスケール感のなさ、雰囲気のなさは致命的。天野喜孝がビジュアルイメージか何かに参加してるようだが、監督にこの手の世界観が無かったのだろうか。世の名作（？）達と比較するのは気の毒なのだが・・・

ほぼ同時代が舞台の『地獄門』とは使えた予算がケタ違いだろうが、『羅生門』（これよりもう少し後だろうか？）は本当に鬼が出てきそうな世界観があったではないか。平安末期の『五条霊戦記』くらい斬新にする手もあったろう。例えば工藤栄一（江戸時代が主だが）のような画面の奥行きは皆無と言ってもいいほどでいかにもテレビ的画面。

そしてなんといっても類似性が高いのが『帝都物語』（時代は明治・大正だが）。ニセ歴史物であること。式神を飛ばしたり呪ったりサイキックウォーズ色が濃いこと。共に平将門・ナントカ親王（左遷されてメソメソ詩を書いていた道真オヤジではなかったのだな）の怨霊物であること。夢枕獏・荒俣宏といったウサンクサイ奴らが原作であること等々・・・。だが、その画面の迫力と雰囲気は実相寺昭雄には遠く及ばない（脚本は散々だが）。残念ながら滝田洋二郎には向かない話だったのか・・・。

それに、男女が結ばれればそれでよしってのも、いかにもロマンポルノ的だし。

あと、特撮にはいいスタッフを使おうね。