[コメント] エレファント(2003/米)
我々が今息をしている「日常」という此岸と、例えば殺人とか虐殺といった風景の横たわる彼岸との間には、実は何もない、狂気さえもない。
それにしても狂気、とはなんて便利な言葉だろう。我々常人の理解を超えるものを定義し、ある種の納得を与えてくれる。
「狂気」は「動機」に次ぐ犯罪映画の重要な構成要素として一世を風靡した。『セブン』『羊たちの沈黙』辺りがピークだったろう。
しかし、「狂気」は便利過ぎた。明確なる動機なき犯行は全て「狂気」で片付けられるようになってしまった。今や狂気は、sawa38さんが『鬼が来た』でコメントしているように「現代人の安易な逃げ」、そして「センショーナルな宣伝文句」へと成り下がっている。
ガス・ヴァン・サントはそういう風潮を皮肉り、誤解を取り去りたかったのだと思う。この映画には狂気なんてものは何処にもない。あるのは殺したもの、殺されたもの、生き残ったもの其々の主観だけだ。時には置いていかれそうなほど早く、ときには苛付くほどゆっくりと流れ消えていく時間だけだ。そんなものの積み重ねだ。
日常の集合体が社会である。犯罪とはそこから見出される大小の綻びに他ならない。本作は同一事件を扱いながら『ボウリング・フォー・コロンバイン』とは全く逆の立場・側面から、現代アメリカの全体像=『エレファント』を照らし出そうという意欲作である。問題提起は過不足なく的確に成されている。
(HWさんも指摘しているが、実録映画というより米高校生版『異邦人』たる本作品にナチについてのシーンなど一切不要。表層的で明らかに浮いていた。)
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