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[コメント] モンスター(2003/米=独)

シャーリーズ・セロンの熱演は素晴らしく、アカデミー賞を受賞したのにも納得できる。しかし物語は二つの点で無理が生じ消化不良な印象が否めない。
わっこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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恋人を養うため、連続殺人に走る娼婦の人間ドラマ。連続殺人犯アイリーン・ウォーノスの事件をベースにしている。

心に障害を抱え、愛に飢えた殺人犯アイリーンをシャーリーズ・セロンが熱演。13キロ体重を増やし、特殊メイクを施してあばた顔になった上、従来クールな役どころの多かった彼女がヒステリックで屈折した感情表現を披露し、演技に新境地を見せた。この作品の演技でアカデミー賞を受賞したのも納得できる。

ストーリーは基本的に不遇な身の上の女性アイリーンの屈折した純愛映画を目指したせいか、実在の殺人犯アイリーン・ウォーノスがやや美化して、描かれている。美化それ自体は別に構わないのだが、美化しようとしたためにストーリー的に説明不足が生じ、やや違和感の残る結果となっている。

問題点の1つは、アイリーンが銃の扱いに手慣れている点、2つめはアイリーンがベテランの娼婦なのに一切化粧をしていない点である。1つめは彼女が過去に車から銃を乱射して逮捕されていたり、武装強盗の前科があることがわかれば、最初の殺人での銃の扱い方、そして、二度目から最初の事件で使ったオートマチック式の拳銃ではなく、あえて命中率、殺傷力を高めるために銃身の長いリヴォルバー拳銃を選んでいるところなど理解できるのだが、映画では軽い前科のある娼婦としてしか描かれていない。そもそも、彼女が不遇な身の上の貧しい娼婦という設定に無理があるのではないか。実際の彼女は過去に兄の保険金1万ドルを手にし、2ヵ月で使い果たした経験からして、金遣いが荒く、とても小銭を稼ぐために娼婦をやるとは思えない。つまり、最初の殺人にしても娼婦として客を取ったがレイプされそうになり殺したというより、娼婦に化けた強盗して普通に客を殺したという方が妥当な気がする。

次にアイリーンは娼婦なのに化粧をしていない点だが、貧乏な時はともかく金が入ってからも化粧をしていないのは不自然。年も30越えているし、傍目にも美人ではないわけで、客の食いつきをよくすることを考えたら、少しでも化粧するのが普通ではないか。ここでも映画では全く説明がない。『ボーイズ・ドント・クライ』のように性同一性障害なら考えられなくもないが、映画ではどうもそういう感じはなさそうだし、元々、娼婦の経験は無かったと考えるのが妥当だと思う。

以上2つの点からアイリーンが娼婦というのは不自然なのに、この映画は感動物語にしたいあまり、貧しい娼婦の設定を物語の中核に据え、なおかつ事実に即して描いているので無理が生じている。

シャーリーズ・セロンの演技は素晴らしかったが、物語としては消化不良な映画になってしまった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (10 人)サイモン64[*] Orpheus kaki[*] 死ぬまでシネマ[*] るぱぱ おーい粗茶[*] ボイス母[*] JKF[*] セント[*] リア[*]

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