[コメント] 亡国のイージス(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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はっきり言って、これは原作を読んでなかったからこそ楽しめた作品だったとは言っておこう。少なくとも同じようなネタを使ったハリウッド製の『沈黙の戦艦』(1992)や『ザ・ロック』(1996)なんかと較べても、遙かに面白いものに仕上がっている(比較対象が悪過ぎるのは重々承知してる)。それに日本で作られたと言うことの利点を最大限活かした演出も、なかなか巧い。
話はちょっとずれるのだが、特撮ファンというものは、一つどうしても避けられない観方というものを心の中に持っているものだ。それは現在のCG技術から見たら、どう考えても拙いカクカクした動きのストップモーションアニメや、着ぐるみ怪獣の姿に、その苦労と発想の良さを見出し、今でも感涙してしまうと言う…もはや業としか言いようのない観方であり、ストーリーとかは二の次に、その技術力の方にばかり目が行ってしまうと言う、言ってしまえば悪癖である。
本作は確かに特撮作品ではない。しかし、この目をもってすると、この作品は大変に面白いのだ。だって実際にイージス艦が画面狭しと動き回っているのだし、ハープーンミサイルとか、本当にああいう風に発射されるのを画面に見せてくれているのだ。自衛隊の協力があるとしても、どのように見せれば一番格好良いか、そしてリアルに見えるのか、それが徹底的に追求されているのがはっきり分かるし、その背後に相当の軍事オタクがいる事を確信して、その努力が見えてしまうと、もう駄目。メロメロになってしまう(同じ意味で『ローレライ』にも高得点を入れざるを得なかった)。演出面だけで見るならば、やっぱり感涙ものの作品になってしまうのだ。この細かい描写はどうだ。重火器の取り回しの仕方から、ミサイルの巨大感と、それがゆっくりと火を吐きながら加速していく様!…邦画でこんなシーンが見られるようになるとは!なんと幸せな。と思ってしまう。
…これが歪んだ観方であることは重々承知しているのだが、開き直って言わせてもらえれば、歪んでいるからこそ楽しめる事だって多々あるのだ。
ストーリーの持って行き方も、詰め込みすぎて人物描写を消化し切れてない部分はあるものの、決して悪くはない。敵を目の前にして撃つことを躊躇することを教えるなんてのは、日本ならではの展開だし、日本の平和についてもしっかりと言及されている。ちょっと格好良すぎではあるが、真田広之演じる仙石は、決してヒーローではない事を強調しているのも良い(最後のグソーのダイビングキャッチは凄かった)。これは要するに原作の良さを証明するものだろうから、是非読んでみたくなった(読んだら本作の評価は下がると思うのだが)。
ただ一方、不満もやはり多い。特に根本的な部分で“何故ヨンファはイージス艦を強奪せねばならなかったのか”という部分がほとんど必然性が無かったのが痛い。単に「日本政府が隠した事実を公表しろ」と言う脅迫だったら、そこまでのことをすずとも、政府の要人を拉致するなり、サイバーテロ仕掛ければ充分目的が果たせるわけだし、BC兵器を使うのであれば、都内にグソーと時限爆弾を仕掛けるだけで済んだはず。脅迫の仕方もなってない!大体あれだったら1〜2発艦砲射撃を都内に仕掛けるなり、グソーを分割して地方都市に微量流した上で脅迫すれば、あっという間に政府は要求をのむぞ。脅迫というのは、「やるぞ」と脅しをかけるよりは、「これ以上の被害を出すのか?」とした方が遙かに効果的なのだから(過激すぎる意見かも知れないけど、近代テロではこれは当たり前)。原作ではこの辺がどうなっているのか興味深いところ。それに、いわゆる「亡国論」についても、既にネットに流れていたのなら、多くの人がそれを目にしていた訳なのだから、それを一旦ネットの方で大量に流しておき、それをあおる形でテロを起こすべき。
それと、ヴェテランが良い味を出しているとはいえ、この時間で人物描写を掘り下げるのは流石に無理だったか、それぞれの苦悩や主張を出し切ったとは言い難い。女っ気が全然無いからと言うことで出したのだろうジョンヒの存在価値も全くない(存在感だけはあったけど)。
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