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[コメント] 乱(1985/日)

ああ、折角の城が生きてない・・・。人物描写も浅い・・・。馬はきれいなんですけどね。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初に断りを入れますが、私、「城」好きです。その観点で辛口のコメント書きました。

本作では、宇土城天守(現在は移築され熊本城の櫓となっている)、姫路城小天守など、日本を代表する現存木造天守が登場しています。それぞれ「一の城」、「二の城」としての登場なのですが・・・、力強い漆黒の宇土城と、繊細な美しさを誇る白い姫路城は、黒は旧豊臣家系、白は徳川家系のシンボルでもあるので、本作品のテーマである「乱」を連想させます。

また、この2つの城は前作『影武者』でも使用されており、黒澤監督のお気に入りの城ということが想像できます(私のお気に入りの城でもあります)。一つには、(殆どの城にある)観光用の展望台の手すりや窓ガラスなど、撮影に支障をきたす障害物がないことも選定理由の一つと思われます。

さて、前置きが長くなりましたが・・・、本作のテーマは「乱」です。戦国の世の「乱」を描くには、人物の葛藤はもちろん、城や旗色の変化など、重要な要素になると思います。しかし、折角の宇土城と姫路城が、ただワンカット写っただけで終わってしまうのではあんまりです。旗(幟)も「一」「二」「三」を線の数と色で、敵味方を識別させるだけの為に、足軽に持たせているような感じが否めません。

影武者』では、「人は城 人は石垣 人は堀・・・」の武田信玄が背景(というよりこちらの作品のテーマである「影」そのもの)にあるため、城の描写はワンカットで十分でした。また、「風」「林」「火」「山」の旗はそれだけでも存在感十分だったし、死後も生きる武田信玄の思想を象徴しているかのようでした。

思うに、本作では、焼け落ちる「三の城」の製作と描写に力を注ぎすぎてしまったのではないでしょうか? 同じ城跡であれば、『蜘蛛の巣城』の城跡とは比べ物にならないし、本作の3つの城の描写も、「蜘蛛の巣城」の「本城」「一の砦」「二の砦」の描写と比べると甘さが目立ちます。特に本作の「三の城」は造り込んだのが目に見えてしまうのが残念です(よく出来てますが・・・)。

人物描写においても、父を見放す長兄、父と兄を裏切る次兄、父を隣国で見守る三男の心の変遷がよく判らない。2人の兄は、何の葛藤もなく謀反を起こすものでしょうか? 三男はその間どう感じたのでしょうか? 奥方の表現とあわせて、これも「蜘蛛の巣城」に遠く及ばないようです。何度も登場するピーター扮する狂阿彌は、私には全く意味不明でした。本作は、ピーターの視線で描かれているようでもありますが、ピーターの存在(台詞を含む)を必要としないぐらいの演出力がほしかった・・・。

冒頭の猪狩りのもくもくと湧き出る積乱雲は、「乱」を表現しようとしていたと思われますが、人の心に芽生える「乱」のエネルギーを感じとることが出来ませんでした。

一発の鉄砲玉で主要人物が斃れる設定は、あの名作と比較すると拍子抜けですらありました。特に三男の斃れ方など、あまりにも普通すぎます。

ただ、馬の描写は黒澤監督の他の時代物と並び、本作でも本当に良かったと思う。冒頭の猪狩りや、渡河シーンは思わず「おー!美しい!」、「自分もいつかこれをやりたいんだ(乗るという意味で、もちろん乗馬ライセンスなどありませんが・・・)!」と思えるほどの感動でした。

(評価:★2)

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