[コメント] 日本沈没(2006/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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これと似たような感触の映画を最近観たような気がする・・・と色々思い出していたら、そうだ、ティム・バートンの『猿の惑星』だ、と思い当たった。あれもオリジナルを適当にこねくり回し、適度に前作のオマージュを小出しにし、最後は分かった様な分からないような結末をポンと出して、どうです、気が利いてるでしょ?と言いたげな何とも困った映画だった。あの印象の軽さはこの『日本沈没』とよく似ている。
それでも「難民にも経済格差があり、下手したら国宝や芸術品の方が優先」と、一般庶民の運命をきちんと絵で見せるところなどはなかなか社会性があっていいじゃないか、と思ったものだ。 また天使のごとく天空から炎の海へ降臨する玲子という画を最初と最後にはめ込むなど、うまい演出である。ただその間に挟まれるストーリーは、誰のせいか知らないが、弱すぎる。特に後半はひどい。そうかと言って日本が沈まない、と言うことを指すものではない。別に日本が沈まない映画でも納得する出来ならば、まったく構わない。 しかしことクライマックスからラストに至るまでの、人間性に対する洞察力の無さ、無神経ぶりには我慢ができない。
小野寺は、N2爆弾が沈んでいる深度には絶対到達できない「わだつみ」に乗ることを志願する。「わだつみ」の強度は根性ではどうにもできない。小野寺は自殺志願しているのであり、一言で言えば特攻である。
私はこの唐突な特攻に思わず『惑星大戦争』を思い出してしまった。この映画で池部良はいきなり自分で宇宙船を勝手に操縦し出すと、その間「この兵器を作った私の責任は・・・云々」という池部のモノローグが挟まって敵に体当たりするのであるが、若いころ劇場で観ていた私は、ひどい内容の映画をむりやり特攻で泣かせようとする魂胆が見え見えで憤激したものである(今にして思えば芹沢博士の超劣化コピーと言える)。 この小野寺は重大な決断をしている人間とは到底思えず、死を覚悟した人間とはいかなるのもなのか、ということがまったく見えてこない。
また、そんな申し出をOKを出してしまう上司というのもありえない。私は何かの戦争本で、生還率ゼロ%の作戦は作戦とは言えない、と聞いたことがある。まともな人間ならば殴ってでも止めようとするだろう。しかしそんな葛藤はない。この辺のやりとりの軽さは『ゴジラ』と比べれば一目瞭然。
それでも他に方法がないので血涙、断腸の思いで決断してしまうかもしれない。しかしこの作戦が成功するしないに関わらず、責任者は辞職するべきだろう。しかし危機管理担当大臣にその気配はない。『新幹線大爆破』で宇津井健は、「多数の犠牲者が出ていたかもしれない作戦を許可した」として自ら退場した。作戦が成功したにも関わらずである。
しかも小野寺が死を覚悟しているのが分かっているので、潜ってN2爆弾を装てんするサスペンスも一向に盛り上がらない。どうせ死ぬんだから慌てなくていいよとすら言ってやりたくなる。なんかすでに消化試合のいう感が濃厚である。 私は何も特攻が悪いと言っているのではない(問題発言)。最初から生還率ゼロの人命軽視、無策ぶりが許せないと言っているのである。もうちょっと工夫して生還率10%くらいにすればいいんですよ。
たとえば一案だが、 ちきゅう号メカニックの面々が異常な能力発揮で「わだつみ」を一夜で改造。「10分間だったら1万mまで大丈夫です。」 または世界中から掘削船をチャーターできるのだから、ついでに深海艇もかき集めればよかったのだ。それでも最高レベルでも「1万m10分」のものしかチャーターできない。もともと地殻を分断すれば沈没がピタリと止まるというヨタ話なので、これくらいの無茶は許されるだろう。
田所「10分か・・・短すぎる!」小野寺「博士・・・僕の技術ならば10分で処理できます!」「・・・馬鹿な、やはりこの作戦は中止だ。」「博士!」「ええい、だまれ、お前、死ぬ気だな?俺は許さん!」「違います!」田所、食い下がる小野寺をバカヤロー!とぼこぼこに殴る。それでも血だらけで立ちふさがる小野寺。ここで「奇跡は起きます、起こして見せます!」と決め台詞。田所、小野寺の両肩に手をやって「小野寺・・・すまん!」
場面変わってオートバイで玲子見送り。「必ず帰ってきて!」小野寺さわやかな笑顔で「もちろんだよ」(その前夜、小野寺が玲子とやらなかったのは生きて帰ってくるから今やる必要はない、という理由でなければ説明がつかない)
で本番でやっぱりアクシデントで時間切れがせまる!田所「小野寺、お前はよくやった。しかしもうここまでだ!」「いや、もうちょっとなんです。やらせてください!」 アクロバット的操縦で爆弾装填、が、とうとう艇にひびが・・・絶望がちきゅう号を支配する。ここで小野寺が通信で玲子に愛してると伝えてくださいとかなんとか能書き(棒読み)をたれて泣かせる場面を作る。バカヤロー!と田所、床に拳を叩きつける。ちきゅう号一同号泣。大爆発のあとは映画と同じ・・・とか。
え、これでは女性を動員できない?まあ私もこの程度しか思いつかんな。すまん。
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