[コメント] グエムル 漢江の怪物(2006/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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最近の映画でいうと『宇宙戦争』の冒頭に近いグエムルの登場シーン。人がゴミのように、虫けらのようにはじき飛ばされ、ゴミのように死んでいく。(不謹慎だとは思うのだけど)ここが最高に気持ちいいのだ。ここら辺の「無感情な大量虐殺」シーンは、「もっと血を!」「もっと残虐に!」というスプラッター・ホラーものに近い感覚といえばいいだろうか。しかも、グエムルの造形は『エイリアン』を初めて観た時以来の衝撃だった・・・でも、フィギアを出してもエイリアンみたいには売れないだろうな。だって、萌えないじゃん、グエムルに?(笑)
・・という一見「良く出来た怪獣パニック映画」としてスタートした映画は、だんだんとその様相を変えていく。ある家族に訪れた悲劇として。そして時に喜劇として。
「最も情けない家族にしようと思いました。グエムルと一番戦えそうにない、戦うという行為が似合わない駄目な家族にしようと。それこそがこの映画のドラマの核心部分だと思いました」と語った監督のポン・ジュノ。「屁のコンディションで息子の体調がわかるんだ、BかAか」という映画史に残る爺の名言には『新婚さんいらっしゃい!』の桂三枝ばりに腰をぬかしそうになり「情けなさすぎ!!」と思わずつっこんでしまったけど、この映画を貫いているのは、そんなダメダメ(だから憎めない)家族が「いかに怪獣から家族を守るのか」ではなく「いかに国家から家族を守るのか」という思想だと思う。要するに、ダメ親父以上にダメなのは、もっとダメな政府であり、つまりもっとダメな国家であり、もっとダメなアメリカなのだ。
守るべき国民の安全な生活や市民の人権よりも、グエムルの駆除と実験サンプルとしてのウィルスを優先させる国のやり方。ポン・ジュノは、そんな国とアメリカに対して「NO!!!」を突きつけた。
一般的に9.11以後の「反体制映画」というと頭でっかちになったり、ヒロイックに描いて主張をぼやけさせたり(『ワールド・トレード・センター』)、ドキュメンタリーっぽくして立場をあいまいにしたりする(『ユナイテッド93』)ものだが、『グエムル』は思想として逃げていない、しかもすこぶるおもしろい―怪獣映画の概念を木っ端微塵に打ち砕く最強の反体制怪獣家族映画(なんのこっちゃ)なのだ。
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