[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)
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戦争映画としては申し分のないほどの傑作である。『プライベート・ライアン』を撮ったスティーブン・スピルバーグの協力を得て作る戦場シーンは見事であるし、戦争が終わってからの苦悩を中心に描くことにより、クリント・イーストウッドらしい部分を垣間見せ、音楽の力もあって終盤は哀しさを漂わせる。“国家に利用された英雄”を通して戦争の暗部を描くという視点の鋭さが冴える点も含め、戦争映画として記憶に留めておくべき作品であろう。(硫黄島プロジェクト自体の意味合いはやはり強いだろう。)
しかし、上記のこと、批評家やメディアで絶賛されていることは理解した上でも、やはり期待値には満ちていない映画だったことは否めず、五ツ星をつけるべき映画なのに、それが出来ないことが非常に哀しい。
戦争映画としては傑作だというのは上で述べたとおりだが、この映画は人間ドラマとしては傑作とまでは行かないのである。
この物語の主人公は3人。硫黄島で星条旗を掲げた写真に写っていて、帰国後国債キャンペーンツアーに帯同させられた英雄3人である。彼ら3人には、それぞれに語るべきエピソードがある。ツアー終了後には誰からも相手にされず職探しに苦労する者、インディアンであるゆえに差別され、アルコールによって死を迎える者、戦場で起こったことの幻想に悩まされながら年老いていく者。それぞれに、戦争と戦後による傷が見える。彼らのエピソードは、それだけで1本の映画になるほどのものにも思える。
だが、この映画は主人公は3人であるが、もうひとつ別の主人公が存在している。それが“戦争”なのだ。この映画は戦中、戦後も含めた“戦争”という大きいテーマを描くことを、一人の人間を描くことよりも優先した。
その結果、人間ドラマの要素が弱まってしまい、ひとりの人間を深く描けていない印象を残してしまった。終盤の悲惨な運命を辿る3人のくだりは、もっと心に痛切に迫ってくるべきだと思うが、それが意外と浅い傷で治まってしまうのである。『ミリオンダラー・ベイビー』という人間ドラマの傑作の直後では、このくらいの浅い傷ではずっしり響くところまで至らないのである。
改めて言うが、戦争映画の傑作であることに異論はない。しかし、イーストウッドには人間をきっちり描くことで、戦争を伝えてほしかったのだ。
今回、イーストウッドが挑んだ硫黄島というテーマは、とにかく大きいものだ。だが、彼にはもっとパーソナルな、小さなテーマの方が向いているのではないか。『ミリオンダラー・ベイビー』然り、『許されざる者』然り、である。
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