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[コメント] 松ヶ根乱射事件(2006/日)

恐らく山下敦弘から見た90年代っていうのは、バブル全盛時以降、覆い隠されてあった「醜悪さ」が何かの拍子で暴かれるという危険性から人間関係が徐々に崩壊していくイメージだったんだろう。その「因子」がネズミだったり金の延べ棒だったり生首だったり私生児だったり、実体の掴めないものばかりで余計に主人公の苛立ちを助長させる。
SODOM

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







表面上では全くの不可視である「醜悪さ」が、90年代に蔓延っていたことは事実だろう。 意味不明なモラルを無理矢理強要され、雁字搦めになった人々が、とうとう自我を爆発させて起こった悲劇がオウムや宮崎勤や林真須美のカレー事件ではなかったか?

これらに共通する「ただ殺ってみたかった」原因そのものを訴求する時、その背後にあるモラル(道徳観)の不在が必ずといっていい程浮かび上がる。

人間が「共に生きよう」とする意欲を棄て、「自分がこの世界で一番」だと激しく主張したいが為に、間違った方向へ進んで行った人々が90年代、犇めき合っていた。

この映画に登場する人達はまさしく↑で陳述した通りの(!)思考回路しか持たない典型的な90年代の人間ばかりなのだ。モラルが完全に欠如した人間が行き着く先は・・・・・乱射である。ラスト近く、主人公の光太郎が「ネズミ」を根絶やしにする為に松ヶ根の河口に毒薬を流そうとする場面がさり気なく描かれるが、あれはオウムによる地下鉄サリン事件そのもののメタファーなのだと解釈出来る。

一見穏やかな田舎町、松ヶ根。一見しただけでは、ごく普通の平穏な世界。 しかし、その裏では恐ろしい人間の歪んだ欲望が渦巻いている。

車のへこんだ部分に白い雪を擦り付けて隠そうとする主人公の父は、どこぞの国の大統領を思わせるが、それ以上に、光太郎がやってのけた乱射こそ、我々に醜悪な真実を曝け出させる為の行為そのものではなかったか・・・?

世界の醜さを隠そうとしたって無駄な事。だってもう底が割れているんだから。完全に底の割れた現代に向けた光太郎の情けない乱射。これぞ山下敦弘が我々に託したメッセージだ!!

(評価:★5)

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