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[コメント] パッチギ! LOVE&PEACE(2007/日)

根本的に作品全体を観れば、各エピソードの繋がり方が乱雑であり、井筒作品としても高い評価を下すことは出来ない。しかし、70年代から連綿と続く自己陶酔型戦争大作に果敢に挑んでいるという意味で、この作品は勇気ある挑戦作として認められる。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品の明らかなターゲットになっている、都知事制作・脚本の『俺は、君のためにこそ死ににゆく』という映画を自分は観ていないし、今後も大枚の金を払って見に行く気持ちはない。理由は簡単、これまでに慎太郎原作、或いは脚本の映画を少なくとも5本は観て、その稚拙さと安っぽい思想に呆れ返ったからだ。自分は井筒監督がこの映画について語ったという言説を見ていないのだが、もしそこに石原作品へのアンチテーゼが明白にあるのなら、監督としては責任をもって作品を目撃し、発言すべきだったとは思う。しかしたぶん未だに多くの都民人気を集めている石原の大作に対し、この映画は安上がりな戦闘シーンしか作り出せるまい、との自分の諦めは見事に裏切られた。

そして、石原作品のみならず現代戦争映画をカリカチュアとすることなく再現した、『太平洋のサムライ』(既存の『大空のサムライ』とは全く関係はない)なる作品を、キョンジャは国民の「名誉」よりも生きる意味を大切にし、戦場を逃げ惑った父の思いを胸に真っ向から否定する。そしてその想いは、ピンポイントで見せてくれる迫力を充分に持ち、井筒は画面上でも立派に現代を指弾する。

自分はこれを支持したい。日本中の人々が右傾化の波に嬉々として乗り、あの戦争の犠牲者を「英霊」などと呼んで無責任に国家神道に立ち戻ってゆく様は醜い限りだ。『LOVE&PEACE』などとは今時気恥ずかしいサブタイトルだが、まさにそこに現代指弾の鍵があることを評価したい。作品として観るならば、これは在日朝鮮人を描きつつそこに異常なイデオロギーなどは存在せず、立派に現代の日本人の問題として敷衍していると感ずるからだ。ここには日本人の一面しか描かれていないという批判には、まさにその一面こそが数多の日本映画に欠けていたものだ、という事実をもって反論したい。

(評価:★3)

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