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[コメント] 300 スリーハンドレッド(2007/米)

おお!これこそ「全ての映画はアニメになる」の実践!とは思ったのですが、同時に私の妄想がどんどん拡大していきまして…レビューは読んでて不快になるかも知れませんのでご注意を。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 歴史家ヘロドトスの「歴史」によれば、BC480年に行われたというテルモピュライ会戦を題材に取った戦いを描いた作品。ヘロドトスによれば、ギリシア連合軍5,200人対ペルシア軍21万人の戦いとされるが、ここではきりが良いためか、スパルタ軍300人対ペルシア軍100万人とされている。

 私は歴史を題材とした映画は大好きで、これも相当な期待を持っていた訳だが、どうやらそれは間違っていた。歴史ものの作品を観ようと思って本作を観ると、かなりの幻滅感を覚えてしまう。

 ただ一方、まるで劇画を読んでるような、汗臭い男たちの戦いの物語として観るならば、充分過ぎるほどの迫力がある。特に画面の演出及びその処理画面の端々にまで「派手に見せよう」という執念のようなものが見えてくる。特にこの、画面そのものを素材としてコンピュータ処理する技法は、押井守が提唱していた「すべての映画はアニメになる」が、しっかり根付いていることを感じられて、押井ファンとしてはなんか嬉しくなってしまった。戦いのシーンはスローモーション多用で魅せるべき部分はしっかり見せようと言う心意気に溢れ、残酷描写も極めつけ。首やら足やらの切断面まで見えるほどだし、普通の画面に至ってもスピードの緩急をずらす演出がふんだんに用いられ、本当にアニメ的。

 少なくとも画面演出については申し分ないし、作り手もその辺割り切って作っているのだろうからまったく問題なし。

 ただ、ひねくれたものの見方をすれば、それだけですまないものも同時に感じてしまう。

 私の妄想と言われればそれまでだけど、本作には気持ち悪いほどの右傾的傾向を感じてしまうのだ。しかもかなり現在のブッシュ政権寄りの。

 それで少なくとも二つ。かなり首をひねる部分あり。

 一つ目として、何故今テルモピュライ会戦なんだ?と言う点。たまたまそう言うコミックだから。と言われればそれまでなんだけど、何故今ペルシアを敵にしなければならないのか。そこに作為的なものがないだろうか?…補足で説明すると、中東の国の民族はその大部分はセム系民族なのだが、一国だけペルシア系の国がある。他でもない、ブッシュが「悪の枢軸」と呼んでいたイランそのもの。中近東の国々の中でもイランが特別視されることが多いのはこれが原因。彼らも自分たちが誇り高いペルシアの末裔であることを誇りにしているため、他の国とは仲が良くない。

 アメリカはかつてイラクに言いがかりつけて攻撃したが、次はイランと言われてる今の世相で、いくら過去の事実とはいえ、モロにイランとの戦いを出すのは、世相的に勘ぐり入れてしまう。

 そしてもう一点。バトラー演じるレオニダス王が「これは民主主義を守るための戦い」を連呼していた点。

 確かに民主主義は古代ギリシアが発祥。アテナイやスパルタはそれを実践してた国家だが、それは現代で言うところの民主主義とは大きく違う。それは具体的には市民権と生存権の違いと見ることが出来るだろう。近代民主主義では、市民権の範囲はとても広い上に、そこに住んでいれば、法的に保護される。たとえば、日本に住む日本国籍を持たない人でも彼らの主張も最大限聞くように行政指導されている。これが近代民主主義の生存権と言うもの。一方、これがギリシアの民主主義と言うのは、適用されるのは市民と認められた人のみで、それ以外は基本的に法は適用されない(常時他国と戦闘中にあるのだから、当たり前と言えば当たり前だが)。映画冒頭で体に傷を持った子供は廃棄されてしまっていた描写があったが、事実殊にスパルタの市民権と言うのは、本当に厳しかったらしい。スパルタの場合、単にそこに生まれていれば市民権が得られたわけではないのだ。国家に奉仕できる人間 (ここでは戦える人間とされる)だけが市民と認められるという社会なのである。

 確かにこれも民主主義なんだけど、意味合いが大きく違う言葉を、まるでそれが絶対的な価値観みたいに連呼されると萎える。「スパルタの市民のため」あるいは「ギリシアのため」と叫んでるなら充分なんだけど、「民主主義のために」は作り手の主張が入っているような気がして気持ち悪い。

 この二つを合わせて考えると、近い将来、『フルメタル・ジャケット』(1987)のハートマン軍曹みたいな人が新人海兵隊員に向かってこの映画を見せながら、「いいかお前ら。民主主義を守るためにイラン人と戦え」とアジってる光景が目に浮かんでしまって…

(評価:★2)

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