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[コメント] スカイ・クロラ(2008/日)

大人にならない子供、繰り返される日常、その中で叫ぶ「ボクの戦闘」の意義。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







滑走路に反響する犬の遠吠え、ジッパーを降ろす音、窓の外で渦を巻いてる風のくぐもった音、遠くから響いてくるプロペラの音。雑多な生活音からそれらの音だけが抽出されることで、かえってこの世界の無音さが際立つ。ドームの中にいるようでいて、たえず空気が薄く抜け出しているようなたよりない感じ。私は、押井作品にも空中戦にもあまり思い入れがある人間ではないのだが、この世界の閉塞観(感)の描き方には惹かれた。

本作はそこに閉じ込められ続けることの無為は、いつかはやがて自らを排除するしか他に道がないことを示唆し、今の時代だったらそこからどう抜け出す方法があるのかを思索しているのだと思う。

函南の生まれ変わりが現われた時、水素は(何度目かの「彼」の生まれ変わりに対して)初めて「あなたが来るのを待ってた」と言った。世界にとっての利益がゆえに何度も生まれ変わってくる「彼」ではあったが、函南の生まれ変わりの「彼」が特別であると言うことを通じて、人と世界は便利の交換だけでつながっているだけがすべてではないこと、そして、結局同じことじゃないのか、と諦めて括ってしまわないことの価値を言っている。

こういうテーマが「押井アニメ」という制約の中で、どれだけの人が見る機会を持って、どれだけの人の耳に届くのだろう。日テレは『ポニョ』と同じくらいもっと宣伝をしてあげればいいのに。ところで、なぜ今「閉塞感」を問題視せずにいられないのかと思ってみたりする。少し前の時代を思い返してみると、人ってそれほど無限回廊に埋没していることに閉塞感を感じていただろうかとふと思う。むしろ変わらない日常に浸かっているということに平穏な気分でいたように思う。台詞の中に再三「利益の追求」という言葉が出てきたり、会社による戦争とかいう設定を考えると、トーンは低いのだけれどもともと話のベースに経済至上主義世界の行き詰まりというのがあったのかも知れないと思った。本作は、自分を包みこんでいたものの底が割れてしまったという今の時代だからこそ生まれてきた物語だと思う。

こっから先の未来は、変わり映えのしない同じことを不細工に繰り返していると思われようが、世界と遮二無二につながろうとして、人に何がしかの作用をもたらすことで初めて自分の存在意義が見出せるようなことになる、という主張に同感する。

(評価:★4)

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