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[コメント] チェ 28歳の革命(2008/米=仏=スペイン)

本編の手引きとしては、『モーターサイクル・ダイアリーズ』をまず観てからの鑑賞が相応しいだろう。抒情詩としてのその映画に対し、あくまでこの物語は闘争の歴史を叙事詩として感情を込めずに描き、そのことで映画世界の中立性を保っている。ゲバラの心を語るのは、NYの国連総会ほかで帝国主義に立ち向かう彼の咆哮だけだ。
水那岐

時ならぬチェ・ゲバラブームである。国粋主義ブームに飽きた若者たちが、たとえば『蟹工船』をリスペクトしたり…という反動のような動きの一環かもしれない。だが、この連作映画は安直な礼讃映画の形を取ってはいない。描かれるのは、判断を完全に観客に任せた冷酷なまでの事実の羅列だ。

例えば戦闘シーンは突然に挟み込まれ、唐突に事実を語り終えた上でぶつ切りになる。いわんやカタルシスなどとは無縁の描写だ。ゲバラの「偉大さ」のようなものが描かれるわけでもない。彼の言葉はサンドイッチ式にいたるところに挿入されているが、そこに正義を見い出すか否かは観客次第だ。ソダーバーグの意図はまだ見えてはいないが、彼が『いちご白書』をもう一度聞きたい左派ロマンチストよろしく、大学の壁に張られた稀代の英雄のヒゲ面への憧れだけでこの映画を撮ったのでないことも確かだろう。

決して胸躍る映画ではない。だが、続きは観たい。ソダーバーグが何のモティーフを持って長尺の映画に終止符を打つのかは見てみたい。それは多分、自分たちの頂点に立った神の国の権威を否定した、矮小な人間でありながら巨人と呼ばれた男へのひとつの価値規定であるはずだろう。

さあ、アメリカ人の回答を提示してくれ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)Keita[*] TM[*] 甘崎庵[*] おーい粗茶[*] sawa:38[*]

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