[コメント] 空気人形(2009/日)
高い批判性と映像の希少性とが無理なく共存した作品。人間と同じ心を持った無生物という設定の論理的な帰結として身体感覚の欠如した主人公の起こした悲劇を通じて、同じ身体感覚を有するはずの人間同士がまともに他者理解できなくなっている寒々とした現実を逆照射する。
それにしても、主人公の設定が奇抜であり、その設定に納得感がないと主題へのアクセスが閉ざされてしまうだけに、この主人公の属性を示すためのプロセスは入念きわまる。起承転結のバランスが大きく欠けて見える(「承」の部分の肥大)のはそのせいであるが、終盤部の簡潔さが際立つという良い副次的な効果をもたらしてもいる。
ペ・ドゥナは、この役は難しかっただろうが、監督の意をよく受けて無生物としての動作一つ一つに説得力を持たせており、秀逸である。この人形振りを見ている観客に自分の身体性を再実感させるというねらいは十分に達成できている。人形の真似をするという演技は、歌舞伎など古くから芸能には存在する技法のひとつだし、それは取り立てて新しいものではないと思うけれども、性欲処理の人形に設定するというアイデアでこの映画はワンアンドオンリーの作品となった。21世紀の世界を鮮やかに切り取って見せている。
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