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[コメント] スペル(2009/米)

生理に訴えかける至福の映画体験。論理的解析を微塵も受け付けないこういう映画を評するのが私はとても苦手です。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大音響を伴うプロローグとメインタイトルでエスニックな呪術テイストをコテコテに見せ付けられた時点で、あえて狙ったB級なのかと期待と失望が入り混じったが、『スパイダーマン』を経たライミはさすがに違う。タランティーノよりもさりげなく、ギレルモ・デル・トロよりも(いい意味で)だらしなく、チープでレトロな娯楽映画がつるつると紡がれていく様にどっぷり浸った。

キャラクターを生かした語り口の独特なリズムが気持ちいい。銀行でローナ・レイヴァーがキャンディーをごっそりバッグにがめるカット繋ぎ一つにしても、どこか漫画のコマ割りのリズムのように見えるのだが、タランティーノほどには演出の作為を感じさせないところが老練だ。

もう一つ、アメコミを映画化した演出家の仕事だな、と思うのが人物の顔の造作である。ヒロインの上司、同僚、恋人からその両親に至るまで、実に特徴的な顔立ちの羅列がある。見ただけでその人の性格がわかってしまうような薄っぺらな顔ばかりだが、デビッド・リンチ風な奇形ではなく、それでも目を逸らすことができないという独特の印象を残す。漫画チックと片付けられない上手さがそこにある。

地下駐車場のスピード感、ポルターガイストに代表される、見えない、見せない演出、そのものズバリの汚物やハエといったグロ描写、そのどれもが、散々見たことがあるような気がしつつ、なおその技巧の高さゆえに思わず我を忘れてのめり込んでしまう。頭の半分では演出臭さを理解しつつ、残り半分で感情のままに身を委ねるという快楽。嘘を嘘とわかってしまうバカバカしさと、それに乗ってしまえる自分。そんな状況に酔う心地よさ。

ジャンルを問わず、このような上質な作品に出会ったとき、私はそれをただ浪費してしまう気にはなれない。なんだかんだ言っても、結局は回り回って「人間って何だろう、生きるって何だろう」という青臭いが本質的な問いに対する一つの光明が、どんな形にしろそこにあるような気がしてならないからだ(つまり、面白けりゃいいじゃん、ってことですね)。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)muffler&silencer[消音装置] 死ぬまでシネマ[*] けにろん[*] サイモン64[*] 3819695[*] おーい粗茶[*]

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