[コメント] アバター(2009/米)
本作の怒涛の技術を目の当たりにした後で、予告編『FINAL FANTASY XIII』の3DCG映像を振り返ると、「糞」という一語が思わず口をついて飛び出てしまうくらいの衝撃であった。昨今の技術集約的な大作映画とは比べ物にならないスケール感のフィクショナルリアリティと、キャメロンが70年代B級出自であることが、本作のストーリーテリングの確かさを極めつけて、映画という娯楽メディアがエンターテイメントの王であることを決定づけた一大叙事詩であった。言うまでもなくジェームズ・キャメロンとは類まれなイマジネーションを持った大作家であるのだが、本作をSFファンタジーと単純に括ってしまうことは、この一作をおいて見ればとんでもない物言いとなってしまう程の驚異である。現時点で本作で描くキャメロンのSFイメージは人類の精神的風土と言っても過言ではない未知を創造することに成功した。キャメロンのイマジネーションで描かれるフィクションとは精神的な覚醒と結びついた、言い換えるとするならば胎内感覚とでも呼ぶべき、羊水に浸っているかのようなたおやかな神秘世界である。本作の舞台となる衛星パンドラの異世界造形は、彼の出世作『アビス』の深海世界と通ずる、怜悧な中に漂う体温のような温もりがあり、そこに描かれるのは、決して荒唐無稽な仮想空間ではなく、もっとレトロな郷愁に誘われる深層心理に根ざした異空間なのである。ゆえに彼の描くSF的世界は、無機的で硬派な感覚ではなく、もっと緩やかで温かな触覚と結びつく不思議なファンタジーであり、そうした親近感を抱かせる未知なるイメージを創造できるのは、もはやこのキャメロンをおいて他にはいないだろう。構想14年、製作4年をかけて達成したこの偉業は、映画遺産として燦然と輝く巨星である。
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