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[コメント] 夢売るふたり(2012/日)

満たされていたはずの「既婚女」が自我崩壊の危機にさいし、満たされない「未婚女」たちの自意識をもてあそぶことで、既婚の意義を維持するという極めてエキサイティングな女をめぐる話のはずが、ただの「それでも私は生きていく」的生ぬるい成長譚に見えてしまう。
ぽんしゅう

捨てられた不倫愛人(鈴木砂羽)、仕事に不満なパラサイトOL(田中麗奈)、容姿コンプレックスのチャンピオン(江原由夏)、金と男つまり人生にルーズな風俗嬢(安藤玉恵)、金には困らない子持ち未亡人(木村多江)。女の秩序破壊者・里子(松たか子)は停滞した女たちの日常を、悪意の道具と化した一本の棒(男)で撹乱する。しかし、映画はいかなる化学反応も起さず、この「女」と「男」と「女」たち物語はただ茫漠と拡散し続けるだけだ。西川ファンとしては、何とももの足りないのだ。

西川映画の真髄である、いつものシャープな意地の悪さが希薄なのだ。満たされない「未婚者」たちに対して注ぐ西川美和監督の視線は、あくまでも優しい。いや、「未婚者」だけではない、挑発者として物語の軸になるべき里子(松たか子)に対しても優しい。いきおい、里子の不気味さはうわべだけにとどまり、凄みや、悲しみや、可笑しみは生まれない。物語の拡散は、西川の女性に向ける優しさが招いた視線の拡散と同意であり、最後まで映画は焦点を結ばなかった。

一方、阿部サダヲが漂わせる「ぬめっとした色気」が尋常ではない。これは、二枚目スターと呼ばれた往年の日本映画の男優たち、上原謙森雅之佐田啓二が発散していた妖艶さと同質の色気だ。女を撮ろうとして、男の色気が撮れてしまうという矛盾。西川美和は、前作までのように「男」を撮ったときにこそ冴える、と言ってしまうのはいささか早計だろうか。

(評価:★2)

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