[コメント] ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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いきなりネタバレだけど、あの火炎放射器で暴漢を焼き払うシーン。ふつうに相当エグいシーンなのにあれが爆笑シーンになってしまうという。暴漢の狂乱ぶりやディカプーの大仰で滑稽な所作、それまでのリックやクリフたちの勢いの衰えた寂寥さを感じさせる生活描写、ヒッピー連中の言うことを聞かなそうな憎たらしい描写なんかの積み重ねがあって、あれが快哉をもたらす場面になるわけなんだけど、拍手喝さいならともかく、「爆笑シーン」にできるのが、もうタランティーノ以外にこの世界ではいないような気がする。焼けコゲの死体がぷかぷかプールに浮いてきて、それでまた爆笑、ってのも、死体がドリフのコントのような面白おかしく戯画されたものでない、わりに現実感のある物体なのに笑いになるっていうのは、どういうメカニズムになっているのか、これは狙ってきちんと設計されたものなのか。「若い女の子を火炎放射器でまる焼きにする」絵で笑いをとって、われわれの良識を壊して見せているわけだ。なんて凄いんだろうか。観終わって帰宅するまでは、その理由を考えたり、感心してはうなってみたりだった。
事件のあと史実どおりに今度こそシャロン・テイトが殺されることになるのかと思いきや、そうでないという事態が、最初は呑み込めなかったのだけど、だんだん「事実をベースにしたフィクション」であることに気づき、つまりこれはシャロン・テイトとお腹の赤ちゃんを殺した連中を、シャロンの出てた誰も気にも留めないようなB級作品のガジェットで返り討ちにするっていうコンセプトの作品だったんだな、と思うにいたり、映画ファンらしいそのアイデアに心温まる気持ちにどんどんなっていったのだった。『ジャンゴ』や『キル・ビルVOL.2』のような、映画バカが熱くなるようなドラマのほうをタランティーノには期待してしまうのだけど、この作品での「破れざる者たち」への監督の優しさがあとからあとから沁みてきて、結果監督作品の最も好きな作品になっている(現在)。
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