[コメント] ガス人間第一号(1960/日)
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やぶからぼうだが、水野と藤千代は肉体関係にあったと思う。自分の本心から望むことを探しあて、その欲望をぶつけることぐらいしか生きる意味を見つけられなかった水野は、自分の生をかけて藤千代を求めただろう。最初は後援者として頼らざるを得なく、やがて彼も自分も世間から見放された存在と、次第に水野に傾斜していった藤千代は、彼の怒張したものを受けそして彼の果てるのを見て、この人の荒ぶる魂を鎮めてやれるのは自分だけなのだ、ととうとう本当に愛おしく思うようになってしまった。そしてそれは同時に2人の行き着く先の覚悟を伴ったものだったと思う。公演の中止を促がしにきた女記者に「あなたは本当に男の方を愛したことがおありです?」と小さくだが断じて言った台詞に女記者は二の句がつげない。もはや藤千代も最後の舞を舞うという以外に生きる道を断ったのだ。彼女は水野とともに吹き飛び分子レベルになって一緒になろうと思っていたのか、あるいはただ心中を図っただけなのかわからないが…。
これで終わればファンタジーだが、彼女と結ばれるという甘美な結末を直前まで抱いていたろうガス人間のこれまでの悪徳を監督は許さなかった。彼は夢を見たまま死なせてはもらえなかったのだ! これは壮絶だ。
水野のニヒリズムと、藤千代の運命を受け入れる覚悟、それに対しての、現実的な正義感の刑事と、おぼこい女記者のアンサンブルが絶妙。開襟シャツの刑事と薄手のブラウスの記者に対し、いつもスーツのガス人間と和装の家元といういでたちも、かれらがあらかじめこの世から隔絶されたかのように見えてうまい。
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