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[コメント] 首都消失(1987/日)

おまいら…本作を含めてこの頃の和製大作に1点を付けるのをステイタスと感じているヤシはいねがぁ?この映画初のレビュー書いてやりますた。よろしければ、勝手に見やがってください。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 なんて…2ch風(?)のコメント、失礼しました。最近つい真似したくなります。それからアルシュさんのコメントをパクってごめんなさい! では、本題。

 演出が気まずいのは、ちぐはぐなタイトルバック近辺でもう解ってしまう。諸々、何でこうも外すのか不思議なくらいです。『日本沈没』の森谷司郎木村大作はさすがでした。

 本作は何がまずいって、ディテールがめためたです。科学考証を始めとする様々な設定考証に無理があるのは特撮映画の伝統と言えば伝統ですが、問題は人物造形です。自衛官の夏八木薫が公車に民間人の同乗を許したり、指揮官クラスの幹部であるにも関わらず、ただの野次馬に反応してしまうのはストーリーの進行上、時代と考えましょう。まずいのは例えば渡瀬恒彦、あれだけ妻と息子に愛想尽かされてる男に、娘は何だってあんなに従順なんでしょうか? それから名取裕子も仕事と私情の狭間で揺れるキャスター像ですが、そこに渡瀬山下との疑似三角関係を持ち込んじゃったりするから、結局どの感情もちぐはぐになり、何一つ伝わってこない。さらに酷いのは山下真司、プロなら間違ったってあんな浅薄なまでに感傷的な台詞を同僚に投げかけるような事はしないでしょう。全く好感が湧かない駄目キャラです。ラストのキスシーンなんて爆失笑ものです。最後に忘れちゃならんなのが丹波哲郎、いったい何しに出てきたんでしょうか?

 往年の傑作特撮映画と比べて、明らかに駄目な点は、このブレだらけの人物造形です。これに比べたら、昔の登場人物達はフィクショナルでありながら、どのキャラもしっかりと立っていました。

 この映画、見所は二つです。一つは中野昭慶の特撮。個人的には『日本沈没』など、むしろ怪獣の出てこないところで大雑把なりにスケールのある独特のスペクタクルシーンを展開していたように思っています。この映画における怪物雲の描写だって、いつもながら使いすぎの火薬が時折ぼろを見せたりしますが、今見ても全然見劣りしません。一線級相手ならいざ知らず、騙しだましの二流CGに比べたら、実に堂々としたものです。問題は特撮技術云々ではなく、アイデアの問題、ズバリ言って、何故雲なんだ? ということです。

 娯楽映画と割り切るなら、あの雲はつまらなさすぎます。あんな中途半端で意味不明なワンダーなら、怪獣でも出した方がましってもんです。というわけで、ネタに関する考証を少し。

 このネタに関しては、賛否両論あると思います。見ようによっては、『ドラゴンヘッド』の先駆けのようにも映ります。だからもっと心理的なシュミレーションを深め、臨場感のある人間ドラマを織りなせれば面白くもなったはずです。

 或いはあの雲は間違いなく核爆発の暗喩でしょうから、この映画の真の命題は、

“冷戦下の米ソに挟まれた緊張状態において有事となり、無政府状態となった際に、米ソはどうでるか? そして日本人は、とりわけ為政者達はどう動くのか?”

 だったはず。その根本的な問題に関する認識がもっと深ければ、主役が《電気技師=単なる民間人》と《ニュースキャスター=お上と民間の間の感覚を持った人間》であったことが、庶民を置き去りにする政治と世界状勢に対する風刺にもなりえたはず。早い話が『世界大戦争』のようになったはず。本編がそこまで出来ていたら、“何で雲なの?”という問い自体が出てこなかったはずです。

 やっぱり一点つけたくなりますよね。これで、二つ目の見所、“ロンリークライ”さえなければ…。

 あれにはやられました。「苦しんでいる人々がいるのに、ライブなんて不謹慎だ!」と殴りかかって『スクールウォーズ』をフラッシュバックさせた真司真司ですが、殴られた方が盲目のロックアーティスト(ワンダーか? チャールズなのか?)で、実は雲の下で苦しんでいる仲間のための応援歌を歌っていたのだーっ!なんて…。ろくに人物造形もドラマ造りもせず、テーマも放ったらかしたくせに、何て言う身勝手で扇情的でオナルな演出をしやがるんだ! と思った瞬間、バカ映画発見機がピクリと反応、クライマックス、ヒロイックに倒れた渡瀬、その姿を見て燃え上がる駄目真司のヒロイズム、キスシーンの爆失笑から、ずぶの素人が初めて乗る特殊車両を駆って悪魔の雲に突っ込んでいき、見事勝利を収めるとともに何もかもをうっちゃてしまう終幕に至っては、笑いが止まらなくなってしまいました。

 おめでたい時代でしたが、皮肉なものです。つまるところ冷戦時代の方が日本も世間も平和だったわけですから。そのおめでたい世相の中で育った自分は、この頃の空気、“泡”の中の平和と浮ついた終末感をむしろ懐かしく感じます。良きにつけ、悪しきにつけ、今、この映画を作る気力は今の日本映画にも、日本そのものにもないのですから。

 ノスタルジーの+★★

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (11 人)煽尼采 すやすや おーい粗茶[*] 甘崎庵[*] 荒馬大介[*] BRAVO30000W![*] torinoshield[*] アルシュ[*] Osuone.B.Gloss[*] 水那岐 あまでうす

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