[コメント] マタンゴ(1963/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「マタンゴ」。
なんてエロティックな題名なんだろう。 この映画で難破船の中の木の箱に入っていた巨大キノコの名前がそうだ。 「マタンゴ」、キノコの名前、この名前からは何も連想できないし、意味も読み取れない。しかし何か妙な感じがする言葉だ。
映画はこの「マタンゴ」という題名が赤い字で出てきて始まる。 そしてネオンがきらびやかな夜の街が窓越しに見える。まるで「ブレード・ランナー」のような高層ビルからの夜景。時代は新しいのか古いのか解らないがとても美しい。日本語のネオンが見えるので東京かなと思う。 そして男のナレーションとともに「物語」が始まる。
ストーリーは男女7人が優雅なヨットで海に遊びに行く。しかし嵐にあって無人島に漂流する。そこは霧に包まれ動物もいない何か変な島。そこで飢えと疑心あんぎになり人間の本性が現れてくる。
この映画は「特撮」というより「人間ドラマ」の映画と言ったほうがいい。 圧倒的な演出、シナリオで人間の本性を描いていく。確かに古い映画なのでカメラワーク的な演出は弱くカメラで心理描写ができないが(アップ、カットバック、クレーン、移動撮影など)全体のシナリオが良く出来ているので極限の人間の本性が良く出ている。硬い演出だ。
このしっかりとした演出こそが映画の後半の「特撮」に現実感をもたらしている。
この特撮は「特撮」としてはあまりにも幼稚だ。ただ特殊メイクしたキノコ人間が出てくるだけだ。けど「キノコ」というもの自体がなんか怖い。「キノコ人間」アイディアで成功している。
しかし妙にこの映画は印象に残る。その「妙」は何んだろう。その妙な印象をたどってみるとあるシーンにたどりつく。
映画の中間あたり、食べてはいけないキノコを食べ凶暴になり追放された2人の男女、もう2人の男女は生きるために島へ食べ物を探しに行く。難破船に残ったには若い実業家。彼は絶望して「殺してくれ」と懇願したが主人公たちにそのままにされ一人船の中で残っている。そこへ追放された女が静かに雨の中船に入ってくる。「静かに」というのが妙な怖さを感じさせる。彼女はキノコを食べたからか妙に生っぽくそして色っぽい。まるで毒キノコのように色鮮やかな感じだ。彼女が絶望している男の前に立つ、背中は雨で濡れていて光っている。その背中は後ろの開いた服で地肌が油をつけたように白くてかっている。本当に狂おしいほど色っぽい。エロティックだ。
彼女の濡れた背中こそ、「マタンゴ」。
毒の誘惑、毒の魅力、毒の美しさ。
この映画の妙な感じは、この毒のもつ魅力なのだろうか。
私の感覚もまだこの美しい毒で麻痺している。
題名の「マタンゴ」のエロティックな響き、彼女の濡れた背中の匂い立つエロス。
このエロティックな感覚は毒キノコの鮮やかな色と白い軸の部分が水野久美の赤い口紅と濡れた白い肌に重なるところがそうさせるのだろう。
彼女こそ「マタンゴ」。
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