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[コメント] キャスト・アウェイ(2000/米)

今はトムの「低迷期だ」と思う‥‥トム・ハンクスの「目」論/レビューには、彼の他の作品に対するコメントも含まれますので注意を
パッチ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







トム・ハンクスの「目」の変遷(全くの勝手な私論)

 自称トム・ハンクスファンの私は、彼を見るとき、いつも「目」に注目してしまいます。私にとっての彼の魅力は、なんと言ってもあの好奇心一杯のやんちゃ坊主丸出しの「目」だからです。

 焦点が定まらないような、少し斜め上の方でよく動く、ちょっと落ち着かない瞳が悪戯っぽさを醸しだしますが、力を入れて眉毛を上げると逆に瞼が下がって目が細くなり、眉毛を下げた方が目が見開かれて爛々輝くところも彼の特徴です。この特徴的な目のしぐさが、なんだか「悪さ」を考えている子どものような、ちょっと惚けた彼の独特の表情を創り出すのです。

 初期の作品では、彼のこの特徴が非常に生かされてます。特に1986年から1989年頃の作品では、この「目」の魅力が“炸裂”します。実は私の大好きな彼の作品はこの時期に集中しています。代表格は『マネー・ピット』『ドラグネット・正義一直線』『ビッグ』そしてなんと言っても『メイフィールドの怪人たち』です。んーん、いいなあ。どこみても、なんかしてやろうとって雰囲気が充満してるんですよ!

 ところが、1990年頃から彼の「目」の演技に変化が現れます。『虚栄のかがり火』で明らかに目をつくろうとして失敗(?)します。あの悪戯っぽい目を消せません。役柄と表情がなんだかしっくりきません。表情が安定しないのです。がっかり。『ジョー、満月の島へ行く』も中途半端に終わります。

 しかし、1992年から1994年頃の作品で多分彼は文字通り「開眼」したと思います。『プリティ・リーグ』『めぐり逢えたら』で押さえ気味だけどそれぞれに役柄に応じた安定した「目」を披露します。そして、『フィラデルフィア』では、弁護士としての自信に満ちた目と、患者としての落ち着かない不安定な目、死への恐怖の目、法廷におかれた自分の立場の変化や明らかにされるプライバシーに対して見事に目で応えます。本当に凄いです。心の奥底を語る目です。目で感じさせる演技です。おー凄い!って思わず叫んでしまう私です。さらに『フォレスト・ガンプ/一期一会』で、昔とはちょっと違うけど惚けた、純真な「目」が健在であることを示してくれます。

 だが、『アポロ13』(1995)を観たとき、私はショックを受けました。「あの目」が彼から完全に消えていました。凄い役者になったなあと感心させられましたが、ちょっと寂しい気もしました。役者としては最高の演技だと思います。『プライベート・ライアン』も然りです。『グリーン・マイル』もそうです。私はちょっと不安になっていました。彼は、私の大好きなあの目を失ってしまったんだろうか?と‥‥

■やっと『キャスト・アウェイ』に辿り着いた

 ここまで読んで頂いた方、どうもすみません。やっと本題です。こうしたちょっと不安を感じながら、『キャスト・アウェイ』を観ました。私の関心は、「あの目」が出てこないかなあ。と言うことに集中してしまっています。

キャスト・アウェイ』における目の演技には、多分メイクも大きく貢献していると思います。明らかに形も変えています。

 無人島に行くまでは、眉毛もあまり動かず、瞳が安定しています。これは最近の傾向です。

 無人島に行ってからは、変化の節目がいくつかあります。最初は瞼が斜めに覆い被さった「不安な目」をしています。瞳が上の方を小さく動くのです。荷物を集めたり、水を得たりしていく都度にだんだん目が見開かれてきて、瞳も力を帯びてきます。「生きる希望を感じさせる目」でしょうか。(これはちょっと期待できるぞ!と私は思ったのでした)

 ボートでの脱出の失敗あたりから、焦点がちょっと浮いたようになり、目の動きが変わってきます。「人目を気にしない目」といったところです。(んーん?)

 次の大きな変化は、ウイルソンの登場です。ウイルソンによって視線の置き所を得た目は、通常の瞳の動きを取り戻します。「特定の人を意識した目」です。そして‥‥あっ「あの目」だ!はじめて火を熾す前の煙が出たとき、一瞬あの目が飛び出した。やっと待っていた彼の目だ!やった!

 4年後、減量のせいもあるが、少し鋭くなった目は、少し見開かれ、瞳が少し下に向いて動きます。彼には珍しい動きです。ちょっと「悟ったような目」です。そして、ロープを編んでいるとき、またあの目が出ます。期待と希望と好奇心の表情をつくります。

 無人島から戻ってからは、無表情ではないがちょっと悲しげで安定した目に変わります。瞳がよく動くが、一回一回しっかり止めて、不安の中にも人間としての力強さが感じられます。結局、あの目は2?3回、ここぞと言うときに蘇っただけでした。

■“トム・ハンクス”の映画が観たい

 こうして、物語は終わります。こんな凄い演技ができる俳優になったんだなあと、今更ながら感心してしまいます。でも、やっぱりなんか違うような気がします。いや、絶対違うぞ。トムの演技は絶品だし、作品としても素晴らしいんだけど、これはトム・ハンクスの映画じゃない。トムに匹敵する(そんなに多くはいないけど)他の名優が演じても成り立つ映画だ。彼でなくっちゃならない映画は、1995年以降ないんじゃないだろうか?私は、今は彼の「低迷期」だと思っています。

 私が観たいのは、実はトム・ハンクスという固有名詞の彼自身なのかもしれません。もう一度昔に戻るんじゃないんだろうけど、トムの「あの目」が炸裂する映画を、新しい「彼自身」が弾みまくるような作品を待望します!

(評価:★4)

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