[コメント] ムッシュ・カステラの恋(2000/仏)
サイマフ、30歳。独身。社会人学生。
このごろ、何やってもうまくいかない。
去年のクリスマス・イヴ以来、再び吸い始めてしまったタバコも、やめよう、やめねば、やめちゃいな、と思いつつ、なかなか踏ん切りがつかない。
新年早々、「今年コソはヤルゾ!」と決めたいくつかの目標も、いつしかヤニとホコリにまみれてる。
再開したトレーニングも、タバコのせいか、すぐに息が上がるし、控えるはずの甘いお菓子やファーストフードも、その誘惑に全戦全敗。
仕事も納期ギリギリ、春休み中に読むはずだった、図書館から借りてきた論文・文献も床の上で横になったままグッスリ。
気分はブリジット・ジョーンズ。日記も面倒で書かないけれど。誰かに恋するなんて、そんな気持ちも涌くわけない。それどころか、部屋に虫が涌きそうだ。すっかりダメダメモード。
そんなときには、掃除するのが一番だ!
蒲団を干して、シーツも枕カヴァーも洗濯して、掃除機かけて、窓拭いて、要らない物は全部捨てて…
「さあ、キレイになったぞ。景気付けに映画でも観るかっ!」ってなワケで、『ムッシュ・カステラの恋』だ。
この物語の登場人物たちは、ダメダメモード、惰性モード。バイオリズムが上向きとか下向きとか、もうそんなの関係なくて、ある程度、先が見えちゃって、諦めてるわけじゃないんだけど、いろんなことを「まあ、しゃあないか」で済ませてしまえる、人生のそんな時間を過ごしてる。黄昏までにはまだ早いけれど、かといって、御日様ギンギンギラギラでもなく、ちょうど春か秋の空気がかすんだ昼下がり、そんな時間をマッタリ過ごしてる。
みんな、不器用で、ブニュエルの世界の住人のように、慢性的な欲求不満。そして、長く生きている分だけ、しがらみも強く、一筋縄ではいかないダメダメ加減。ちょっとやそっとじゃ、癒されたりしないし、治らない。
そんな、どうしようもない自分を抱えつつ、「昨日」とはチョット違う「今日」の自分を見つけたくて、「今日」よりチョット素敵な「明日」の自分になれる、チョットしたきっかけを、みんな探してる。そして、それは、自分だけじゃなくって、誰かと一緒にいる自分。ここが大切。
だから、そのきっかけは、誰かとめぐり会うこと。
誰かとめぐり会うことで、英語がチョットうまくなったり、顔をチョットいじってみたり、今まで気にも留めなかった絵や演劇の素晴らしさにチョット気付いたり、自分のヒガミ根性にチョット反省したり、自惚れていたことをチョット思い知らされたり、これからの残り半分の人生にチョット焦ってみたり悩んでみたり。そして、こっそりポロリ泣いちゃうんだよな。そして、こっそりニコリ笑っちゃうんだよな。
でも、自分を相手に"合わせ"て「変える」んじゃない。そんなガキじゃないし、一筋縄でいかない、しがらみだらけの、タチの悪いオトナ。もう十分傷ついてきたから"こそ"、傷つくのが怖いから、オソルオソルなんだけど、知らない間に、変わっちゃってる。
根拠なんかなくてもいい、「昨日の自分とはチョット違うんだぞ」って、誰かに伝えたい。「明日はもっと仲良くなれるよね」って、大好きなアイツに伝えたい。「ゴメンね、こんなダメダメなワタシで。でも、まだ、やり直せるよね」って、大キライなアイツに伝えたい。ビッグ・スマイルを、そんなアイツにあげたい。
そんな気持ちになれる映画です。
「こんな男の人生より、俺の毎日の方が、よっぽどスゴイ」なんて書いてた批評家がいたけど、そういうんじゃないんだよなあ。
サントラ買ったり(買ったけど)、映画に出てくる似たような家具や雑貨、服なんかを探してみたり、「ファッション」や「スタイル」を真似してみたくなるような、「オトナの恋愛マニュアル映画」じゃないし、全然スゴくなんかない。でも、そこがイイのだ。
自分の「イタさ」に気付いてる人たち。その「イタさ」が、もうどうしようもなく変えられないクセのようなもんで、死ぬまで付き合ってかにゃならん、とも気付いている人たち。スクリーンの中で、そういうスゴくない人たちが自由に呼吸している。そういう人たちに出会えるから、イイんだよ。
昨今、邦画も随分健闘してますが、映画の中でも頑張っているのはガキばっかし。そろそろ、奇をてらわない、自然に呼吸しているオトナの邦画が観たいな。「いい歳ブッこいて、ナニやってんだか、ヤレヤレ…もう〜ハグハグっ、ヨシヨシッ」って言える人たちに出会える邦画と、出会いたいですね。
さっ、タバコもやめるゾ〜!恋もするゾ〜!って、伝えたかったんです、アナタに。
追記:この映画がお気に召した方、ジャック・リベット監督の『恋ごころ』もオススメですぞう。
[京都みなみ会館/3.19.02]■[review:3.20.02up]
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