[コメント] 害虫(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『どこまでもいこう』を観ただけで、細かい演出に関しては今日本で一番、世界でも屈指の巧さを持つと私が勝手に断言している塩田明彦監督の新作は、ひょっとするとこのまま本登録されないかもしれないくらい暗くて地味で決して一般受けしない作品。
バーのカウンターにいる男と女。会話はない。だが恋人同士であることは見て取れる。否、訳ありの大人の恋、むしろ愛人と言った方がいいかもしれない。女は無言のまま男のライターを取り自分のタバコに火をつける。たったこれだけで、女が男に対して身も心も許している事が分かる。そして、女が無造作に返したライターを、男は元あった位置に戻し直す。妙に几帳面な男の性格、そして、女が男に寄せる想いほど男は女を思ってはいないことを描ききる。
この映画に説明らしい説明は何も無い。観客は淡々と断片的に綴られるエピソードの積み重ねから判断しなければならない。だが、それを充分に出来るだけの演出力がある。
不幸の始まりは、『もののけ姫』のアシタカと同じく、本人に関係なく背負わされた理不尽なものだ。だが彼女は、それを超えて自分探しをするアシタカとは大きく異なる。むしろ『ゴーストワールド』に近いが、あがくことももがくこともない。不幸に堕ちていく様は『西鶴一代女』にも似ているが、運命に翻弄されるそれとは異なり、最終的には自分の手で過去と決別する。周囲にいじめられるわけでもない。それどころか優しく手をさしのべてくれるクラスメイトまでいる。だが手負いの少女は、さしだされた手までも素直に受け入れることは出来ない。
「何を考えているのか分からない奴」
身近にいたら、きっとそう思うに違いない少女。
「17歳くらい?」
そう聞かれた瞬間、自分の中で何かが変わる少女。
誰も何もしてあげられない。いや、何かしてあげようと考えること自体傲慢なのかもしれない。 考えれば考えるほどジレンマに陥る。これは彼女自身も同じだ。自分の心のよりどころだった先生こそ、彼女が世間から逃げ出す要因ではなかったか。そして先生と決別した後、全てのしがらみを断ち切った後、彼女はどこへ向かうのか。
宮崎あおいやりょうはもちろんのこと、数年前まで偽トヨエツと私に呼ばれていた田辺誠一や雨宮良に至るまで、まるでこの役のために生まれてきたかのような自然な存在感。
だが、正直、終盤の70年代邦画みたいな感じが気に入らない。観終わった直後は3点かとも思ったが、レビューを書きながら4点に上がる。それに、とにかくりょうは凄いし。
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