私はジブリ作品でしっかり観たものは『もののけ姫』と『天空の城ラピュタ』、『ハウルの動く城』くらいなもので、ジブリを熟知している訳ではないし、そんなに思い入れもないです。なので今作と父親の作品を比較すると言っても対した比較にはなりませんが、それでもやっぱり無意識のうちに比べてしまいますね。（今の恋人を無意識のうちに昔の恋人と比べてしまうような感覚に近い？）

サン、シータ、ソフィの共通点があるとすれば、それは「強さ」だと思います。肉体的に強い、精神的に強い等、強さもそれぞれだと思いますが、彼女たちは確かに強かった。女って底力があるっていうか、元来強い生き物だと思うんです。私が観た宮崎駿の作品はそういうところが顕著に描かれているので、彼の描く女性には共感する事が多いです。それに比べ、今回のテルー。ヴィジュアル的にはものすごくイイ。表情もイイ。なんだけど実際何をしたかって言うと何もしてないんだよね。見てくれが単に強そうなだけ。気が強そうなだけ。決定的な行動を何も起こさない。

それは何もテルーだけに当てはまる事ではなかったのがもっと残念。アレンなんてまさに訳が分からない。何故父親を刺したのか、彼の抱える不安とは何なのか。何故時折別人格が現れたように豹変するのか。起こす行動全てが不可解。『ゲド戦記』は読んだ事ありませんが、確かシリーズものみたいな感じなんですよね？そのシリーズの1部を映画化したんだから解らない部分があっても仕方ない。･･･なんて馬鹿げた考えがまさかあった訳ではないですよね？父親を刺してまで奪った剣も結局何だったんだ？ぐらいのもの（しかも簡単に手放しすぎ。そんなに大事なものなら腰にぐるぐる巻きにしとけよ！）。キャラクター設定の詰めが甘かったんじゃないかとすら思ってしまいます。大体起こす行動は全て「負」の流れ。観客もそんな彼に心を委ねる事は到底出来ないですよね。声を担当した岡田准一もはっきり言って全然良くなかった。あのウィスパーヴォイスがいちいち癪に障る。木村拓哉の二番煎じにすらなってなかったです。

一方菅原文太の方はとても良かったと思うのですが、大賢人なるハイタカもイマイチ魅力に欠ける人でした。肝心な時に魔法も使わず（使えず）、結局何も行動出来ずに終わってしまう。囚われたアレンを助けたところをピークに、尻すぼみに魅力がガタ落ちでした。

尻すぼみと言えばこの作品自体それで、冒頭はものすごい期待で膨らんだ胸も、中盤の退屈極まりないストーリー運びを経て、ラストでは猫背ぎみにすらなってしまいました。大体台詞が少ないかと思えば終盤の重要なシーンは殆ど台詞で補う始末。説明くさくてしょうがない。説教くさいとすら思えないくらい説明くさい。だからなお更陳腐に響く。要するに言葉で説明してはいるものの、誰も行動していないんですよね。「助けなきゃ…」って走ってるだけ。実際誰も何もしてない。ただ竜が出てきた（竜になった）ってだけ。その竜も序盤ではどんな風に絡んでくるんだろうと胸が昂ったものの、結局そんなオチかい！みたいな。とにかく登場人物全てに全然スピリットが感じられない。己の信じた道を突き進む、そんな強さがない。信念がない。それどころかどことなく戸惑っている感じがする。物語を動かすのはまさに登場人物たち。そんな彼らに魅力がないという事は、映画として致命的だという事を痛感した作品でした。

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06.07.21　記