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[コメント] 息子の部屋(2001/仏=伊)

生き甲斐を得た者がそれを失った時の恐怖心をそのまま映像にした。それ以上でもそれ以下のものでもなく、ただただそれだけの映画。
kaki

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前作『エイプリル』で自分の息子の誕生をドタバタ喜劇で紹介したモレッティ。きっとモレッティにとって息子の誕生は想像以上に人生を変える大事件だったのだろう、その支離滅裂で情緒不安定さから浮かれっぷりが十分伝わってくる映画だった。それから3年、きっと可愛い盛りであろう息子に相変わらず仕事も手に付かない日々を送っているモレッティが選んだのは、息子の死というテーマ。 セラピストである父は、患者達の戯言に仕事ながらにうんざりし体よく追い返せればどんなにいいだろうと想像していたのに、息子の死後、なんてことない患者の言葉に号泣してしまい「患者達との距離が無くなってしまった。」と仕事を放棄してしまう。家族は皆ラストまで立ち直らないし、死を踏み越えて前進するという事をしない。恋人の死後、新しい恋人と共に旅にでるアリアンヌ(彼女はあきらかに死を乗り越えて先へ進んでいる。)を自宅に帰るでもなく海岸で見送りカメラに振り返る彼らは、そのまま息子の死に立ち止まって動けないことを表しているのではないか。それは選んだのではなくそれしか出来ないという事実であり、また乗り越える必要はないのだと思う。私には大切な人を失った焦燥感は想像できても、そこから立ち直る自分は想像できない。愛する人が死んだら泣き崩れるしかないし仕事やバスケット・ボールなんてまともに出来る分けがない。それは最愛の息子を持たモレッティが幸せのなかで抱える唯一の不安と恐怖なのであろう。モレッティはそれをそのまま映画にした。彼は同意を求めてるわけでもないし我々も答える必要はない。ただザ・ミゼラブル氏の言う通りこの映画で救われる家族はいるのだ。

(評価:★4)

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