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[コメント] コールド マウンテン(2003/米)

この作品の最高の強みとは、たとえ何十年経過しても、“素直に良い作品”と言われ続けるだろうこと。ベタだからこその強みって奴を感じるよ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 チャールズ=フレイジャーの同名のベストセラー小説の映画化作品。

 又古くさい素材を使うもんだ。観る前に思ったのはその事。最近になってこんな素材を出すとは珍しいけど、ひょっとして賞狙い?とも思っていたものだ。

 それで劇場で拝見。やっぱり素材は古くさいし、貫くテーマもかなりベタ。

 しかし、格段に良いところも多い。素直に「良い作品」だ。

 言い尽くされてる感もあるが、一つにはやはりキャラクター。ベタな作品だからこそキャラに負うところが非常に大きいものだが、本作はキッドマン、ロウ、ゼルウィガー全員が見事なぐらいにはまっていた。元々起用な役者だったけど、キッドマンは芸域をますます広げた感じ。しかし、特筆すべきはロウとゼルウィガーだろう。この二人とも、本作で演じたようなキャラクターを今まで演じたことが無かったはずだ。これまでのロウの役柄はどことなく無機質な感じをさせる役が多く、そこがどうも生理的に合わなかった感じで、髭まみれになって、しかも感情爆発させるようなキャラクターなんて、とても合うわけがないと思っていたものだが、とんでもなかった。見事すぎるはまり具合。それだけ役者として成熟したと言うことなのだろう。一方のゼルウィガーは丁度『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編の役作り途中と言うこともあって、『シカゴ』の時とは全く違った姿になっていたが(笑)、あんな粗野な雰囲気をよくも演じたものだ。実際、前年のオスカー女優(ゼルウィガーもノミネート)キッドマンと組んでいて、存在感は完全に食ってた。キッドマンの演技の巧さも、ゼルウィガーが出た途端くすんでしまうと言うのが凄い。2003年度オスカーも当然だろう。この人の演技観たら、他の誰も考えつかないよ。後は勿論脇を固めるキャラクターも魅力的。個人的に好きな男優ドナルド=サザーランドもそうだけど、ナタリー=ポートマンまで出てたとは、恥ずかしながら全然気づかなかった(笑)

 そして演出の良さもあり。南北戦争そのものは冒頭のみだが、その周辺の悲惨さを幻想無しに冷徹に描いたのは特筆に値するだろう。冒頭でこそ派手な戦闘シーン(正直、CGではない生の魅力というのは確かにあるものだよ)があるものの、主人公のインマンは脱走兵だし、女性二人で生活しているエイダとルビーは、戦場を見ているわけではない。だが、戦争そのものから隔たった所に戦争の爪痕がしっかり食い込んで来ているし、しかもそれは思い出話でもなければ他人事でもない。リアルタイムにやってきていること。その演出が割合しっかりなされていた。

 戦争は人を狂わせると言うが、実際は、戦争と平時とは、常識そのものを転換させなければならないため、あそこで兵士が行っていることが、その時の“正義”であったわけだから…その点で巧かったのが途中の北軍兵士の物語。彼らも平時には良き青年、良き父親であったのだろう。ただ戦争である以上、自分が生き残ることを優先し、南部の力を削ぐために活動していた。だから子供を大切に思う気持ちというのが見られたりして、なかなか魅せてくれる。ただ、それ以外がほぼ勧善懲悪になってしまったのが少々不満でもあるのだが…3分で良いから、エイダを追いつめるティーグの心情を描いてくれていたら、もっと深みが出ただろうけどね。この点は物語性を優先したと言うことかな?

 後、あまり言われてないようだけど、カメラ・ワークは凄く良いぞ。ベタな物語を新しい演出で描こうとするなら、当然これは必要。キャラクターの映え方はこのカメラ・ワークに負うところが大きく、見事な描写だった。冒頭の南北戦争シーンでの血の海でのたうち回る描写も凄い。

(評価:★4)

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