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[コメント] ブロークバック・マウンテン(2005/米)

かなり期待して観たのだが、思ったよりも心に訴えてこない。二人の青年の結びつきが、「深い愛情でつながっている」というよりは、「甘美な快楽がいつまでたっても忘れられない二人」に写った。少なくとも僕の目には。
プロキオン14

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず青年時代から最後は40歳前後までを演じているにもかかわらず、ジェイク・ギレンホールはいつまでたっても「少年顔」なせいもあるが(ヒースのほうは、それなりに顔が加齢していったというより、最初から「ややフケ顔」で演じていた気もする。彼は『ブラザーズ・グリム』では「これ誰?」って顔だったし)、最初から自身はストレートで、なおかつそれなりに世間を知っていたイニスと、どちらかと言えばゲイに近く、いくつになっても少年のような無邪気さで、夢にばかり溺れて世間知らずのジャック。

少なくともイニスにとっては、ジャックからの手紙が無ければ、そのまま一生妻を愛し、あの夏のことは「一夏の出来事」として封じ込めてしまうことが出来たはず。しかし生活苦のなかで、ジャックからの手紙を契機に、何者にも縛られていなかった「あの夏」に戻ることで、逃避している。それを「愛」という名前のものに錯覚しながら。

ジャックはアン・ハサウェイと結婚する。彼の結婚が成立するには、彼女のような「積極的な女」が必要。だいたい彼女とであう直前まで、バーで男を物色していたし、彼女には自らアプローチをできないのに、ピエロの男には「その気満々」で声かけて、しかし相手にもされない。彼にとってはそれこそ「偽装結婚」。自分に正直になったときに、かつて一番深く結びついていたイニスとの関係、その快楽を「愛」と思い続ける。

しかしジャックの妻自身はちゃんと自立した女性で、結婚し、出産しても自分の位置は見失わない。いやどんどん強くなる。それは彼女の「容姿(特に髪の毛)」の変化に顕著に現れる。このあたり、家庭的に恵まれているというのもあるが、イニスの妻と見事に好対照。「行く先を見失った夫に振り回される妻」と「子供のような夫を手のひらの上で余裕で遊ばせている妻」。

ところで「それ」を目の当たりにしてしまい、苦悩し続けたイニスの妻に対して、ジャックの妻はどの程度知っていたのだろう。彼女はかなり聡明と思われる。普段の夫の態度・仕草などから、ある程度夫の「性癖」には気づいていたのではないかと。その上で「ある程度遊ばせていた」というように見えたんだけど。(彼女の父などは「男」扱いしてなかったし)。

ジャックの「死」。はっきりとは描かれていなかったけど、イニスの脳裏には、事故死ではなく、誰かに「制裁」を加えられたように写っていた。これは?イニスと喧嘩別れした後、ヒッチハイクで知り合ったひげ面男と「関係」して、それが公になって、「妻」または「妻の父」の指示で殺されたのかと僕は想像した。

主演の俳優二人は、それはそれはものすごい頑張りでした。どちらかといえば「青い」役が多かった二人だけど、アカデミー賞に絡んだことで、しっかりと彼らのキャリアのステップアップになったでしょう。まさに体を張っての演技。(ふたりの奥さんも体張ってました。とくにアン・ハサウェイが一瞬だけとはいえ、ポーンと脱いだのはビックリ。

ただ、個人的な印象として、愛の「心のぶつかりあい」は繊細な表現をしていたと思ったけど、「行為」そのものは「男×男」も「男×女」も、あまりうまい見せ方ではなかったかな、と。それがあるから、この映画が「愛の映画」ではなく「一時の快楽を愛と錯覚する映画」に見えてしまっているのかもしれない、僕自身として。

(評価:★3)

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