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[コメント] トゥルー・クライム(1999/米)

緻密ではない浅くて粗の見える脚本。しかしそんな脚本だからこそ知ることができるイーストウッドの監督としての確かな力量。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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最初に言っておくと、この映画の主人公はいくつになっても女と酒に溺れ、あの歳になってもまともな家庭を築くことすらできないクソ亭主である。そんなやつに感情移入してこの映画に入り込めという方がそもそも無理な話だし、また、正直脚本自体も浅く粗だらけなので、物語的なものの深さを重視して映画を観る人からすれば本当につまらない作品なのだと思う。その気持ちはよくわかる。

しかし、皮肉なことにこの映画は、そんな最悪のお膳立てであるがゆえに「こんな粗の見える脚本がこんなに素晴らしい映画になるなんて!」と、普段はあまり意識しないであろう演出というものの醍醐味が最高に味わえる作品でもあると思う。少なくとも私にはそうだった。

魔のカーブでの事故、それが伏線となるクライマックスのパトカーとのカーチェイスを雨やラジオ、そして火花という小道具を使いながら見せる迫力満点のシーン。小道具といえば子どもの絵。そして迫力満点といえば忘れられない動物園でのカーチェイス!? さらに編集長やバーテン、黒人少年の母親とのやりとりの妙。特にスニッカーズを頬張るときのジェームズ・ウッズのあの画としての可笑しさ。そして忘れてはならないラストの会釈。その距離感…。サッと思い返すだけでこれほど印象的なシーンのある映画なんてなかなかあるものではない。そしてそれらのシーンの画としてのおさまり具合の何と幸せなこと。

また、浅いとは言いながらも、クソ亭主である主人公が救うのが改心してマイホーム・パパとなった青年であるという設定も、私には心地よかった。

何度も言うが、この映画の脚本は浅くて粗が見えるものである。しかしこの「映画を観た!」と思える幸福感は何なのだろう。まさにこれを映画と呼ばずして何を映画と呼ぶのかと思ってしまうほど私にはこの映画のイーストウッド演出は感動的であった。

(評価:★5)

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