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[コメント] その男、凶暴につき(1989/日)

ズバリ!北野武の挑戦状!
いくけん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







○自分の感性・感覚で映画を撮る。

冒頭の湾曲した橋を、渡りきる長いシーン。エリック・サティの暗い情念のこもった調べのもと。刑事は悠然と歩いていく。引き摺り気味のいつもの歩調で。自分の呼吸(テンポ)で。過去の映画の文体、常識などもろともせず。力強く、真っ直ぐに歩いていく。この長いシーンは、北野武の映画界に対する挑戦状だ。俺は自分の感性で映画を撮る。撮りきるとの決意表明だ。

○人生の主役、そして責任が降りかかるのも俺一人

バットを持って逃走する犯人追跡シークエンスのスリリングなことよ。逃走者を追跡する刑事(車窓にシールドされて)。二者に対して、完璧に傍観者たる通行人(世間一般の政治等に対する無関心さ、無感覚さを暗喩しているようで不気味)。 逃走する犯人が、車に乗った刑事に襲いかかる展開に驚いた。そして痺れた。(犯人=演じ手、一方的に見られる側の芸能人/車窓にシールドされた追跡者=観客、われわれ)。一方的に見られる、煽られる立場の芸能人、観客に比して弱者な芸能人の悲哀を、あのバットをもった犯人に感じた。毒をもって毒を制せよ。優位にたつ観客を自らの毒でその彼らの価値観・常識を汚染し、演じ手と観客の感性を近づけ、観る観られるの優位性の彼岸を無意識に無くそうとしたのが、ビートたけしの漫才の、あのけばけばしい色を感じさせる程の毒の正体ではないか。(そう実際にバットを振った事件さえもありましたね。)

○「キタノ・ブルー」はまだみれない けど 

しかし、漆黒(しっこく)の闇の美しさ。その冷え冷えとした闇の深さに吸い込まれそうになった。夜間、歩道橋を交叉する白竜北野武の相呼応する男の殺気、エロスの何たる凄まじさ。ジャン・ピエール・メルビルを彷彿とさせる。処女作にして、絢爛たる和製フィルム・ノアールの構築!

○静寂もいい リズムもいい

ラストの銃声のリズムの見事さ。そして終幕のタイピングの音。映画を反芻(はんすう)するかのように。静かに。いつまでも反芻するかのように。

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あとは、全くの余談です。

むかし、ビートたけし監修による、『たけしの挑戦状』というファミコン・ゲームがあった。たけしキャラが、唐突に、町のチンピラに撃たれてしまい、すぐに死んでしまう。ゲームのコンプリートの見当すらつかない、ひどいものだった。絵もショボイし。いわゆるクソゲー、伝説のクソゲーとして有名になっている。当時からたけしフリークなので、パッケージのチャチさに一抹の不安を感じつつ買っちまった俺も哀れ(笑)。しかし、北野武の漫才や映画に対する真摯(しんし)な姿勢に反して、このファミコン・ゲームに対する徹頭徹尾のやる気のなさ加減は、一体何なんだろう。「ばかやろ〜!、あんた、長時間、ゲームなんてやっている暇(ひま)なんて、人生には無いんだ!もっと、実体験を積め。このやろ〜!」との北野武の優しいメッセージが込められていた気が、妙にする今日このごろなのですよ。

(評価:★5)

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