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[コメント] パピヨン(1973/米=仏)

蝶。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







名作。★4.5

#哀しい本能(的なもの)、裏切り。

#人間の、生物の本能としての生への執着

抵抗』『』が知性派脱獄映画(なんだそれ)ならこれは肉体派脱獄映画。看守を殴り殺す。まずは単純に上質な娯楽映画として楽しめる。やっぱ脱獄ものはいいねえ。2時間半の長尺にもかかわらず全く退屈しない。2回目の挑戦で壁を3人がよじ登るシーンには本当に手に汗握り力んでしまった。それでいてギロチンで首を刎ねるようなグロい描写やハンセン氏病の描写などがあり思いのほか刺激は強い。

スティーブ・マックィーンの名演。 演技といってよいのかどうか分らないが見事に容貌を変化させている。特に独房に入れられている期間の弱り方、まあ白髪になっているだけかもしれないが、それでも精神的にも衰弱していく様子は巧い。『レイジング・ブル』のデ・ニーロよりもすごいと思う。彼がまぎれもない主役であり、そのマッチョな要素は眼鏡を掛けいかにも弱そうで知性派のホフマンと良い対比になっている。でもここのホフマンもいい味を出している。

舞台は南米の未開の地。囚人たちにとっては凄惨な世界だ。男の世界。というより男にしかあんな生活はさせないし出来ないでしょう。ワニと戦わされるはジャングルで働かされるは。伝染病や危険な生物も当然のことながらある。それに加えて看守をはじめとする管理者サイドの面々。もう目に映るものみんな敵状態。ちなみにこれが北国バージョンになるとソルジェニーツィンの「イワン・デニーソビッチの一日」や「ガン病棟」になります。戦争という異常事態を差し引いても、人間は何故ここまでサディスティックになるのだろうか?ある意味第三者から見れば馬鹿馬鹿しさすら感じるのだ。だって空や海はあんなに青く、そして広いのに。人間だけが地上で些細なことやってるよ。自分がギアナなんて場所に送られたら真っ先に死ぬだろうなとクーラーの効いた部屋でふと思った。

関係ないが本作品や『脱出』など当時の作品では自然を脅威として描けているが、『プレデター』や『激流』などは単なる舞台設定になっている感が否めない。嫌いじゃないけど。

しかし私がそれ以上にきついと思ったのは作品中に大量の裏切りが発生しているからである。パピヨンは2回脱獄して2回とも裏切られている。しかも教会にまで裏切られているし。幾度もの裏切りに合い確実に彼は人間を信じる力を失っていると思われる。ドガの妻を信用していないことからも分る。他には件のドガの妻や、多くの管理サイドの関係者たちも裏切り行為を行っている。

何故人は裏切るのか?人は裏切る生物なのかもしれない。とてもつらいことだ。その中でどう生きていくかという問題は、少なくとも私にとって難しいものだ。

何故彼は何度も逃げ出そうとしたのか?単純に考えれば過酷な生活条件と自身の無実からだろう。だがそれ以上の理由として、パピヨンは本能として逃げ出そうとしていたのだと思う。だから流刑となった後も島から脱出したのだ。肉体は衰え、失敗し死にいたる可能性が高いにもかかわらず、だ。ドガと彼とのラストの選択の違いは、2人の生き方の違いの現われなのだ。パピヨンにとって自分の人生を送ること=自由は生命を賭すだけの価値があるものなのだ。そして人生を無駄に過ごすことが有罪なのならば、彼は贖罪しようともしているのだ。

*「生かされている」から「生きる」へ。虫かごの中の蝶は、もし蓋が開けられれば間違いなく逃げ出すだろう。「生きる」ほうが良いと本能的に知っているのだ。そしてパピヨンもまた。

(評価:★4)

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