これは本シリーズの1、2、3通して毎回思うことなんだけど、まぁ何て魂のない映画なんだろうか。これだけ大騒ぎしておきながら、スクリーンのこちら側には常に「他人事感」が付きまとっている。「裏切りに次ぐ裏切り」に面白みを置こうとしているために、観客にとっては主要人物の誰もが「何を目論んでいるのかわからない」状態になってしまっており、結果どの人物にもしっかりと気持ちを乗せられなくなってしまっているんだ。結局のところ、裏切りの一つ一つが軽いんだよ。「悩みに悩んで」とか「意を決して」といった感じがなく、みんな食後のコーヒーでも飲むかのようにサラリと人を裏切る。しかも裏切る瞬間まで観客には説明無しだから、「魂を乗せるヒーローアクション」のはずが「小粒な群像劇」みたいになってしまっている。正直、制作者側がメインに考えているであろうこの「裏切り劇」こそが、むしろ一番の邪魔者なんじゃないかとさえ思えてくる。

　またそんな物語中における各エピソードも、物語の辻褄ありきで無理やり組み立ててあるから非常に座りが悪い。説明不足で感情移入不足で辻褄重視の結果、サオ・フェン（チョウ・ユンファ）とティア・ダルマ（ナオミ・ハリス）なんか思いっ切り割りを食っている感がある。サオ・フェンなんて出てきてから大して何もしないままスワン（キーラ・ナイトレイ）をカリプソと勘違いして唐突に死んじゃうし、ティア・ダルマは引っ張りに引っ張ってカリプソになったと思ったらネズミに化けてはいさようなら。それぞれに「スワンを海賊王にするための流れ」とか「海が嵐になるための流れ」とかがあるのは（後々）判るんだけど、いくら何でも描き込み不足過ぎじゃないだろうか。「デイヴィ・ジョーンズ（ビル・ナイ）が自らの心臓を無視してウィルを殺す理由」とかもそうだし、とにかく言い出したらキリがない。

　まぁ考えてみれば、「ジャック・スパロウ（ジョニー・デップ）を蘇らせる」とか「スワンの命を救う」とか主要人物の命は大切にするのに、その横ではわあわあと雑魚が死にまくっているわけで、結局どれも深くは考えてないってことなんだろう。ウィル（オーランド・ブルーム）が父が乗っているはずのフライング・ダッチマンに嬉々として大砲をぶっ込む瞬間とか観ると、心底そう思う。

　ただこの映画が非常に曲者なのが、そんな薄っぺらで感情移入もできない物語の中に、突如として至高の瞬間（特に視覚的に）が現れることがあるってことなんだ。考えようによってはそんなカッコいいシーンのためにこそ物語をないがしろにしているとも言えるわけで、その瞬間風速はけっこう侮れない。例えばジャックがブラック・パールに乗って砂の海から現れるシーン。意味もわからないままカニに運ばれていたら仲間に会っちゃったってだけのシーンなはずなのに、あのカッコ良さは一体何だ。砂海からその巨体を現すブラック・パール、その上で超然と佇むジャック・スパロウ。何の意味もなくメチャクチャカッコいい。メチャクチャカッコいいのに何の意味もない。

　クライマックスの船上結婚式もそうだ。それまで勝手に信頼できないだ何だって言っていたのが、ちゃんちゃんばらばらブチューって。しかもあのキスシーンが名作映画っぽくて胡散臭いんだ。でもカッコいい。バルボッサ（ジェフリー・ラッシュ）が「お集りの皆様！」とか言っちゃう辺りがメチャカッコいい。ていうかバルボッサはどのシーン観てもカッコいいな。感情移入できない主人公3人分の生き様を、一人で一気に背負っている。バルボッサが出てくるとこっちのテンションがちょっと上がるくらいだ。

　結局この辺りの「美味しい部分」と「（本質はスカスカながら）濃密な展開」、それに「存分なる視覚効果」のせいで、どうにかこうにか面白い映画になってしまっているんだ。魂がないから「荒削り」とさえ呼べないんだけど、いい加減なゴリ押しで3時間を退屈させずに乗り切ってしまっている。何か衣がメチャクチャ美味しいのにエビが小さい天ぷらみたいだ。ただその在り方が正に「ディズニーのアトラクション」っぽくもあり、また「酔っぱらいながら荒海を越える海賊」っぽくもあり、何より相変わらず主題曲がカッコいいので、不本意に高揚しながら映画館を後にした次第です。エンドロール後の「10年後」も良かったしね。あのエンディングやるんだったら、もう続編いらないと思うよ。