コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ベン・ハー(1959/米)

「一粒で二度おいしい」状態。ベン・ハーの恩讐と戦車競争のスペクタクルに加え、同時代人イエスの伝えられる生涯を「理解しやすく」描いている。しかしそれは現代においては「キリスト教原理主義」と映り、異教徒や無神論者にとってはナンセンスにしか映らないであろうことは、ひとえにこの映画の「奇跡」描写に拠っている。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







お釈迦さまでも同じことだが、言うまでもなくその名を不朽のものにしているのは卓越した思想であり、奇跡などというのは実益しか信じない凡人にも教義を伝えるための、いわば方便にしか過ぎない。そのあたりを見誤ると、ベン・ハーは母・妹をハンセン氏病から救ったイエスの奇跡に感動して入信した、などというセコい話になってしまう。映画的には安易な感動は生めるが、今なお通用する効果ではない。 それよりは、メッサラへの復讐を果たしつつ心の虚無感を拭い去れないベン・ハーがイエスのメッセージに心動かされ、それゆえに処刑の場に進む危険思想家・イエスの十字架を背負う姿にいてもたってもいられず、一杯の水を差し出す、まさにその一点に重点を置くべきだったと言えるだろう。

この映画がキリスト教プロパガンダ作品であることは、今や誰でも判ることとなっている。しかしキリスト教原理主義が快く万民に受け入れられる時代ではない。むしろ人間としてのベン・ハーとイエスの生きかたを対比させる描き方をしていたなら、この作品は退色しはしなかったのに、と思わずにはいられない。もちろんスペクタクルとしての価値はいまだ衰えてはいないと信じるが。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (9 人)サイモン64[*] 草月 りかちゅ[*] ババロアミルク[*] 荒馬大介[*] 町田[*] モモ★ラッチ けにろん[*] ジョー・チップ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。