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[コメント] マッチ工場の少女(1990/フィンランド)

ブレッソンからどんどん脱線していく(含『ラルジャン』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ブレッソン直系であり、俳優に演技を求めないスタンス、手のアップの連発(紙幣のやりとりは『ラルジャン』そのまま)やフレーム外の交通事故など影響大だが、それでも俳優が巧いこととブラックユーモアを志向する間合い及び歌謡映画の側面にオリジナリティがある。

というのは普通の感想だろう。だから不幸連鎖の物語についても、ああブレッソンだなあ、カソリックだなあ、地上に救いを求めないんだなあ、厭離穢土だなあ、と思いながら観ることになる。

だから(「イチコロよ」と店員が語る)殺鼠剤買ったときも、これ飲んで自殺するんだなあ、と思いきや大量殺人に話が急展開する。ここがスリリングで一気にブレッソンから離れる。ブレッソンにはこういうルサンチマンでカタルシスな発想はない(『ラルジャン』も殺人に至るが、そういった含みは注意深く消し去られている)。云わば大衆娯楽的な劣情に掉さす訳で、とても判りやすくなりノアール系の収束に至る(逮捕されるとき主人公の手元が写されず何の作業をしているのか判らないのが、全編の謎タッチを締めくくるに相応しい)。短尺がこの序破急にベストマッチで本作の大いなる美点、暗闇で一方的に殴られたような感想が残る。

マッチ工場の詳述は戦前のロシア・アヴァンギャルドが想起される(もちろん近代工場が賞賛される)が、厭離穢土な描写で否定的、フィンランドはロシアと仲悪いもんなあという感想は多分的外れだろう。冒頭の天安門事件は、振り返ればいかなる含みがあったのかよく判らないが、主人公の全滅の予感ということだろうか。バーでナンパした途端に殺鼠剤を呑まされる二人目の被害者の件はとてもいいギャグだった。本作は名優カネィ・オウティネンにとっての『カビリアの夜』なんだろう(買ったドレスを見せて親から娼婦と呼ばれるし)、と観れば堂々の反転攻勢である。

(評価:★4)

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